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一次創作:ダリの宝石店:前編

例によって題名と中身は合っていない。所詮ギャグ。
参考作品:松井優征作品、森田崇『アバンチュリエ』、ALI PROJECTの楽曲『ダリの宝石店』


 19世紀フランス、パリ。産業革命の波を受け、科学技術が進歩し、富裕層と貧困層の格差が益々広がりゆく中、ある商売が貴族たちや成金たちに支持され、メキメキと力をつけていった。
『宝石商』である。
 宝石商は昼間は金持ちのご婦人方が夜会に身に着けて出掛け、富と美しさをひけらかすためだけに使われるダイヤモンドのブローチだの真珠の首飾りだのを、客に世辞を述べつつ売っていたが、あたりが暗くなり人目を忍べる時刻になると、重い床蓋に閉ざされた店の地下室に金持ちたちを招き、夜毎いかがわしいオークションに興じたのである。

 小さな舞台の上に立った、さながら燕尾服を着た小柄な猿のような宝石商が、右手を高々と掲げ、節くれだったその手に余る程大きく、切り裂いたばかりの鳩の喉よりも赤々と輝く一塊の宝石を、集まった客たちに見せびらかして声を張り上げた。
「さあこの鮮やかな深紅のルビー、元の姿はとある落ちぶれた高級娼婦!!梅毒に倒れ美しかった容(かんばせ)も見る影もなく腐り落ちたその時、彼女が思いを馳せたのはかつてただ一人愛した没落貴族の青年、そして彼との間に産まれた息子!!」

わーっ!

 客が熱狂的な声を上げた。その声に応えて、宝石商は右手を挙げた。そして続ける。
「二人の生活費のため、悪魔に魂を売りし健気な女の人生の価値はー…!!?」
 宝石商はそこでドラマチックにもったいぶり、それから叫んだ。
「10万フランから!!10万フランから、ハンマープライス!!!」
 一番前にいた紳士然とした白髪の初老の男が、強欲さを隠しもしない下卑た表情で手を挙げた。
「12万フラン!」
「15万フラン!」
 初老の男が言い終わらない内に、少し離れたところに立っていた脂ぎった黒光りする肌の中年の男が声を上げた。
「18万フラン!」
 初老の男が負けじと言い返す。
「なんの、20万フラン!」
 中年男が酒に喉を焼き潰された濁声を更に張り上げた。
「30万フラン!」
 割って入ったのはガリガリに痩せて神経質そうな婦人だった。
「ぐぬぅ…」
 初老の男が悔しそうに歯噛みした。彼はもうそれ以上払えないのだ。
「30万フラン!これより上はありませんか?」
 宝石商が嫌らしくも宝石を手に持ったままゆっくりと回す。ランプの灯に満遍なく当てて、余計に煌めくように見せるのだ。
「35万フラン!」
 中年男が高々と手を挙げた。
「さ…38万…」
 痩せた婦人が弱々しく呟いた。
「40万」
 中年男はニタリと口角を上げて容赦なく言い放った。
「40万!40万以上はおりませんか?!40万で宜しいですね?!!」
 宝石商がまたしても宝石を客たちによく見えるよう見せびらかしながら言った。どうやらそれ以上払える者はいないらしい。
 中年男はガマガエルじみた胸の悪くなるようなニタリ笑いを益々大きくして、宝石商のいる壇上に向かって言った。二万フラン負けた婦人がハンカチを噛み締めて悔しがっているのも実に小気味よい。
 男は懐から札束を取り出し、宝石商に投げつけるように渡した。宝石商は札束を恭しく受け取ると、赤い宝石を男に手渡した。男は宝石を受け取るや否や、舞台から降りもせずに宝石にむしゃぶりつくように眺め回す。
「ああ…!私をコケにしてくれた愛しい私のヴィオレッタ!!お前の命はやはり私の元に還る運命だったのだ!お前の人生を余すところなく噛み砕き、我が血肉の一部としてくれよう!!」
 男はそう叫んで、赤い宝石に大口開けて食らいついた。

ばり、がきょ、ぼりん。

堅い石を咀嚼する音が、部屋中に響く。

「無粋ねえ」
「『宝石』はずっと手元に置いて愛でてこそなのに」
 ランプの僅かな光に照らされて、得体の知れない怪物のように膨れ上がる、石壁に映された男の黒い陰を気味悪がる様子もなく、上品ぶってふわふわした縁取りの扇子で口元を隠した若い女たちがこそこそと囁き合っていた。宝石商はそれを敏感に聞き逃さず、新たな宝石を鞄から取り出した。それは、夕闇に沈む海より、未明の街に降り積もった雪より青ざめた色をしたサファイアだった。
「さあさあ次なる宝石は若いご婦人方にお勧めのこちら!なにを隠そう、彼は先日、サファイア通りの路地裏で刺殺体で発見された往年の舞台俳優、謎多き彼の人生を味わってみたくはありませんか?」
 かつて自分たちも、憧れと欲望をもって舞台上で歌う姿を見つめていた有名な男優の成れの果てに、その妖艶な煌めきに、女たちは涎を垂らす。

 19世紀フランス、パリ。産業革命の波を受け、発達し出した科学技術に中世から盛んであった魔術や錬金術のノウハウを組み込み、ヒトの魂を宝石に加工し保存する技術が確立した。当初は親しかった故人を悼み、手元に置くためにその技術が使われたが、その宝石の美しさや、食べることで元となったヒトの人生の記憶を自分の一部のように体感できる性質が注目され、やがて資産家や貴族たちはこぞって宝石を買い漁るようになった。宝石はさながら、愛でてよし、食べてよしのグラン・ギニョル劇場、富の有り余る生活では決して味わえないスリルと刺激に満ち溢れた庶民の人生の記憶はこの上ない退屈しのぎであった。需要があれば供給があるのは当然のことで、貧しい庶民たちは自身や身内の死後、魂を加工して売るよう、こぞって宝石商と契約した。

 色とりどりの、元はといえば人間だった宝石を全て売りさばき、空が白みだした頃、誰も居なくなった地下広間で猿のように年老いた宝石商・ダリは一人呟いた。
「今日も素晴らしい稼ぎになった、これだからこの仕事は止められない。」

 しかし、人間と云うのは何と愚かな生き物なのだろう。

「端た金のために他人も、自分の人生でさえも容易に売り渡す平民どもも、そんなつまらぬ人生のために金を落とす成金どもも。自分の生に対してプライドはないのかねぇ…」

 まあ、だからこそ仕事がやりやすいのだが。

 ダリがここらで一服、とばかりに巻き煙草にマッチで火をつけた時、ギギィと音がして隠し扉が開き、小間使いの薄汚れたエプロンを着けた、少し長い黒髪の青年が入ってきた。
「まだ起きてます?」
「なんだねもう休むところだ」
 ダリは不満を隠しもせずにぶっきらぼうに返事をした。小間使いはそんな主人の態度にも構わず、ずかずかと部屋に入る。
「いえねご主人、こんな手紙が店の正面 扉に挟まってたんでさあ」
小間使いは重厚な羊皮紙に金文字を捺し、アメシスト色の蝋で封をした封筒を持っていた。
「警察か?」
 ダリは冗談のつもりらしく、自分で言ったことに笑いながら、ひったくるように青年から手紙を受け取って、ペーパーナイフで乱暴に封を切り裂いた。
そして中身を読む。

「『拝啓、サルニデール・ダリ様。今晩、月の最も高い時刻に、あなた様の最も尊い宝石を頂戴しに伺います。…怪盗ラパン・スィーサイド』…何だこれは?」
「アルセーヌ・ルパンでも読み過ぎたんでしょうかね?春って、何でか多いんですよねこんなイかれた野郎が」
小間使いが呆れたように言う。
「それで、どうします?どうせ頭のおかしい奴のイタズラだと思いますが…」
 ダリは暫し思案したのち、小間使いに指示を出す。
「今夜は満月だな。念の為警備を張る。警察の手配を頼むぞ。」
「へーい」
 小間使いは手をひらひら振って部屋を出て行った。
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一次創作:社長様の恋

精読なさらないよう平にお願い申しあげる。これ、アウトかな…



「やあ、こんにちは」
呼び止められて振り向くと、全身赤い青年がにこやかな笑顔を向けていた。
「あ、ああ、やあ」
生まれてこの方、組織からの指令や仲間からの業務連絡以外で話しかけられたことなどなかった僕はちょっとびっくりして、ぎこちない返事をしてしまった。青年はトコトコとこちらに向かって歩いてくる。

攻撃、されるのか?

僕は殆ど本能的に青年に対して臨戦態勢を取る。こんな弱そうな青年一人、と思われるかもしれないが、たった一人の侵入者が組織を壊滅させることだって大いに有り得ることなのだ。決して自慢ではないが僕は今までに何人もの侵入者をこの手でほふって組織を守ってきた。なのにここのトップときたら、ホイホイ敵を招き入れるような真似ばかりする。
僕の殺気に気づいたのか、赤い青年は両手を挙げる。
「何だよ、オレにそんな意志も能力もないよ。組織、解雇されちゃったし。それに、」
青年は僕に人差し指を向ける。
「もし気づいていないなら言うけど、君だってそんな必要も能力ももうないんだよ。」
そう言われて僕は気がついた。
「あ、」
本当だ。僕はもう闘えないし、その必要もない。
組織の外に出ている時点で気づいても良かったのに。
すぐに構えを解いた僕に、青年はまた笑いかけた。
「ほら、だろ?用済み同士、ちょっとここに座って組織の話でもしないかい?」
僕は頷いて、青年と共に今足元にだだっ広く広がっている、不自然に白い野原に腰掛けた。

「随分顔色が悪いな、大丈夫か?」
青年は心配そうに聞いてきた。
「君のとこにも僕みたいのはいるんだろ?元々だよ」
僕はすげなく返す。組織からはぐれなくたって、どちらにしろ死ぬまで戦って戦って最期は無造作に廃棄される運命にあった自分の体調など心底興味がなかった。しかし青年はよほど気になるらしく、さらに聞いてきた。
「それにしても、だよ。君のトップは一体何をやっているんだ。」
僕は他人や自分、とにかくありとあらゆる全てにおいて無責任なトップを思い、自嘲的な気分になって笑った。
「僕がいることも忘れてしまっているか、知らないんだろう。そういう君は随分と赤々してるな。僕の組織の奴らとは大違いだ。」
気づいたことを指摘しただけなのに、青年は何が嬉しかったのか、やや誇らしげに胸を張る。
「ウチのトップは栄養摂取が大好きだから。君は彼女の料理を食べたことがないのかい?」
僕は記憶の糸をたぐってみた。生まれてから食べたことがあるのは、カップラーメン、ポテチ、コーラ、菓子パン各種。大体そんなもの。ひたすら炭水化物のフルコースだったのは間違いない。
「ない、と思う。だって、そんな美味しいものが仕入れられたなら、僕にも配られた筈だもの。少なくとも僕が配属されてからはないよ。」
「ふぅん…」
青年は腑に落ちない、と言いたげに顎に手を添えて首を傾げた。少々わざとらしい。
「何か?」
僕が聞くと、青年は疑問点を教えてくれた。
「いや、不自然だなぁって。彼女は自分で食べるのも大好きだけど、人に振る舞うのも同じくらい好きなんだ。恋人なら手料理くらい振る舞う筈だろう?」
僕には何も不自然とは思えなかった。僕のトップがどんな人物か、知っていればすぐに想像がつく。
「君のトップは、少ーしそこらへんの感覚が緩いのかもしれないな。まだ若いのか?」
僕はまた聞いた。
「ああ、うん。少女と言っても良いくらいだ。戻れたら、注意してやれるんだがな…」
「僕や君みたいのが指令部に訴えかけたとしても、何も変えられないだろ。ちょっと痛い目見れば変わるんじゃないか?君のトップも。」
「ああ…でも、まだ子供なんだぜ…」
青年は少し哀れむように、今は静かにそびえ立つ巨大な、しかし僕のよりは一回り小さな組織を振り返った。
僕も青年に倣って彼の組織を見た。表面は滑らかで手入れが行き届いていて、それだけでどれだけ彼女が優秀な指導者で、青年のような末端の部下まで気にかけているのかわかるようだった。青年がもう二度とは戻れない自分の組織をここまで慕う気持ちも分かる気がした。それに対して僕は、これまでついにそんな気持ちになれることはなかった。こんな人のクズみたいな奴のために最低限以上の仕事をしてやりたくなかった。いっそのこと総勢60億の仲間たち全体でストライキ起こして組織の機能を止めてやろうかとすら思ったこともあったのに。
自分の組織が大好きで、恐らく仕事に誇りも持っていただろう青年がふとうらやましくなって、そんな言葉が口をついて出た。
「次の人生があるとしたら、君の組織のようなところに勤めたいな」
青年はニッコリ笑って言った。
「ああ。オレはとても幸運だった。」
しかし、青年の笑顔はすぐに陰ってしまった。
「でも…オレが居なくなった後の彼女や組織が心配だ。今回のことで、その…彼女が少々向こう見ずと言うか、後先考えずに行動してしまう所があると露見しただろ?悪いことが彼女に起こらなきゃいいが…」
「君には何も出来ないだろ」
僕は先程よりは穏やかな口調を心がけて冷たい事実を口にする。彼の心配は痛いほどわかるが、それが現実なのだ。
「それは、そうだけど…」
青年は諦めきれずに組織を見上げる。そして、あることに気づいた。
「そうだ!まだ門は開いている!」
霞むほど高いところにあるが、なるほど確かに、彼が出てきたのであろう切れた部分は未だに赤く輝いていた。
青年は立ち上がる。
「こうしちゃいられない、オレ、もう行くよ!」
「君、まさか…」
僕が聞こうとすると、彼は返事すら待たずに大きく頷いた。
「オレの最期の仕事さ。今からオレはあの門から組織にもどる。司令部にまでなんて行けないのはわかってるよ。でもあの門にはオレの仲間たちがいっぱい屯している、組織中を俊足で駆け巡って物資を運ぶ誇り高い仲間たちが!そして、司令部まで伝えてもらうんだ、今まで通り組織にとって良い指導者で居て下さいってね」
僕は何も言えなかった。
僕は最前線で組織を守る仕事をしていたからわかる、トップの性質にも寄るが、組織の防衛機能は殆ど完璧だ。それは僕のようなものたちが侵入者全てに対して冷徹に対処するからだ。今まで一度外に出た組織の者が再び戻ってくることは例がないことだった。しかし、恐らく彼の試みは成功しないであろうと僕は確信を持っていた。彼は気付いていないのだ、自分は既にもといた組織にとっては異邦人であることに。防衛機能に携わる者たちの冷酷さ、融通の利かなさに。
それでも僕は頷いて見せた。使命に燃える彼に何をいっても聞かないだろうし、それに…彼は今まで組織の為に身を粉にして働いてきたのだ、最期に夢を見る権利くらい与えられても罪はないのではないか。
青年はこの朗らかな笑顔で駆け出した。
「オレは絶対彼女を救ってみせるぞ!君も、ありがとな。最期によその組織の奴と話が出来て楽しかった!」
彼の動きの早いこと早いこと、この言葉を言い終える辺りにはもう組織の滑らかな断崖絶壁を登り始めていた。

暫く僕は青年を見送っていたが、その小さな姿が見えなくなったあたりでその場に腰掛けた。
心なしか、辺りが明るくなってきたように感じる。朝とかいうやつか。話には聞いていたが、実際見るのははじめてだ。美しいが、些か僕には眩しすぎる。
僕にはやるべきことも、やりたいことも、やれることも残されてはいなかった。あるのは果てしない自由と、だんだん強くなってきただるさだけだ。出来ることと言えば、ちょっと一眠り。そんなところだろう。

金色の光の射し込む中で、僕はゆっくりと目を閉じた。

Vanity Fair 後編…を書きたかった!

※未完成。どう書くつもりだったかのネタバレあり。



ターゲットが、変わった。
買われた恨みの代償は大きかった。真夜が今まで受けていた仕打ちを、今度はハルが一身に請け負うことになった。一度、米沢とはクラスが違うのに何故かと聞いたら、ハルのクラスにも米沢の友達がいるのだと答えた。
「大丈夫大丈夫。」
ハルは墨をぼとぼと垂らす数学の教科書と思われる本をつまみ上げながら笑っていた。
「マヤだけ居ればいいもん。一人じゃない。」

ある時、米沢がニコニコしながら真夜のところにやってきた。真夜は身構えたが、米沢はなんと腹心の友にでも接するように親切に話しかけてきたのだ。
「これ、次の小テストの範囲。隣のクラスの高木がくれた」
小賢しい賄賂を怯える真夜に構わず押し付けると、米沢は自分が可愛いと思っているらしい上目遣いで真夜の顔を覗き込んできた。
「私、黒田さんと仲直りしたいんだ。」

「あいつ、父親と二人暮らしなんだって。父親がろくに働かないから、あいつが色んな人の秘密の写真取って脅して、お金稼いでるんだって」
「ふ、ふーん…」
前半は本当で後半はウソだ。ハルの父親は働いている。しかし忙しくてほとんど家に帰ってこないのだ、だから自分は実質一人暮らしだ、とハルは笑っていた。しかし、真夜は否定もせずに米沢の話を聞いていた。
「だから、真夜ちゃんもあいつと仲良くするの止めた方が良いと思うの。真夜ちゃんのために。」

あの事件から暫く経って、何かのバラエティー番組で特集されていた。被害者が犯人に同情したり好きになったりすることを、ストックホルム症候群というのだそうだ。私もそれと似たようなものだったかもしれない。今まで私に冷酷だった人間が、突然親切になる。良くも悪くもそいつは学年きっての人気者だから、みんなが私に優しくなる。最初のうちは屈するもんかと思っていたけど、人間は心地好い環境に容易く流されるから。またいじめられっこに戻るのを恐れるあまり、私はいつの間にか、米沢の手下に成り果てていた。

忘れもしない、あの事件が起こる日。その前の日。
真夜が米沢に呼ばれて校舎裏に向かうと、少女の耳障りなほど甲高い声が聞こえてきた。

※ハルちゃんを捕まえた真夜+米沢さんと愉快な仲間たち。真夜は米沢さんに逆らえず、ハルちゃんのカメラを破壊します。

『さあ、愉しいショーの始まりだ』
頭の中で、妙に安心できる声がした。
『自分の罪と、精一杯向き合って来るがいい。』


※はいここまでっ!

そこで真夜は、本来なら止められなかったハルちゃん(現在地獄でカメラマンやってます)の自殺を止める、真夜は勇気を認められ運良く遺体の状態も良かったため復活が許される、再び現世で真夜は初めて米沢さんたちに刃向かい、新しい学校に向かう車の中で『生き逃れてやるさ、今度こそ正しく幸せになるのだ』と決意する…という陳腐極まりない筋書を用意しておりました。何故こんな話を面白そうだと思っただか…。
ハルちゃんのように強い少女が親友に裏切られたくらいで死を選ぶだろうか、と疑問に思ったのが崩壊の序曲でありました…それと、やはり人のこういう『リアルな』死は軽々しく書けない…書いちゃいけない…
また良い解決策が浮かんだら書き直すこともあるでしょう。とりあえず今回はこの辺で。

Vanity Fair 中編

『あの娘』が死んでも、私は彼女たちの奴隷のままだった。お菓子や飲み物を、よく買いに走らされた。勿論私のお金で。現金自体も、貸すという名目で一方的にむしりとられていた。お小遣いが無くなって、親の財布に手を出した。お金が減っているのに最初に気付いたのは母だった。決定的にバレた訳ではなかったが、母は明らかに私を警戒するようになった。もうお金を出すのは無理だと言ったら、彼女…米沢は平然として言い放った。
「じゃあ、盗ってくればいいじゃない。そうね、手始めにジラフの『ジンジャーミルクティー』でも持ってきてよ。私たち、見てるからさ」
イッツアショーターイム、とわざとらしい片言の英語で、米沢は笑った。

周りのビルの屋上や窓に、どやどやと十六夜みたいに頭から角を生やした鬼たちが群がりだしたのが見えた。
十六夜が説明する。
「地獄の鬼たちだ。非常に長生きなのでいつも退屈している。娯楽に飢えているのさ。亡者のショーは鬼たちの退屈しのぎにもなって一石二鳥。」
「…」
不安げな真夜に構わず、十六夜は懐からマイクを取り出し、声高にぶちあげはじめた。
「れっでぃーすえーんじぇんとるめーん。ショーを始める前に、まず彼女の紹介を致しましょう!彼女の名前は黒田真夜、ぴっちぴちの中学二年生!コンビニで万引きして逃走中に信号無視して、罪のないトラック運転手に消えないトラウマを刻み付けた極悪少女ですっ!」
十六夜はそこで一旦言葉を切った。
ま~ぁ!最近の若い子ったらとんでもないわね~!
おばさんの鬼たちが彼女を非難する時間を与えたのだ。声が少し治まった頃、十六夜は再び口を開けた。
「彼女の罪状はまだまだありますがまあそれは追々。どうぞ皆さん、罪深い彼女に救いの手を、差し伸べてあげて下さい!」

「まずは一番近くのビルにいらっしゃるお嬢さん!そう、赤いコートを着た紫の髪をした方です。何かリクエストはございませんか?何でもやりますよ、何でも!!」
お嬢さんと呼ばれるにはかなり年配すぎる女の鬼は、少し考えた末にこう言った。
「そうねぇ、それじゃあフィギュアスケートでもやってもらおうかしら。私は現世のスポーツの中じゃこれが一番好きでねえ」
「え?!」
勿論、真夜はフィギュアスケートなど出来はしない。ただ氷上を滑ることだって自信が無いのに。しかし十六夜は
「お安い御用!」
とニッコリ笑い、ぱちんと指を鳴らした。たちまち真夜の立っている場所には分厚く滑らかな氷が張り、真夜自身も赤と金の衣装を纏い、形だけは銀盤の妖精と成り果てていた。十六夜がもう一度指を鳴らすと、優雅で情熱的な、真夜が一度は聞いたことはあるが名前のわからないクラシックがどこからともなく流れてきた。
「え、え、え」
真夜は戸惑いながらも右脚を氷から離し、後ろ側に高く挙げながらくるりと一回転しようとした。
すってーん!!!

真夜は派手にすっ転び、前のめりに倒れた。顔を鼻のてっぺんから打ち付け、氷が砕け、小さな欠片がぶあっと飛び散った。鈍い痛み。温い液体が鼻から滴り落ちる。

ギャハハハハ!
客席からはあからさまな嘲笑とヤジが上がった。
「残念、貴女には無理だったようね」
顔を腫らし、鼻血をだらだら垂らしている真夜に、鬼の老婦人はたおやかに、しかし冷酷に侮蔑を隠しもせず、ふっと消えてしまった。

十六夜は再びマイクを口に当てた。
「えー、気を取り直して次行きましょう次!他にリクエストがある方は?」

それから真夜は、鬼たちが面白がって色々とリクエストしてくることに果敢に挑戦した。否、しようとして無様な姿を晒すはめになった。
満漢全席を作る、縄跳び一万回、ピカソのゲルニカを実物を見ないで模写…どれも14歳の少女には到底不可能なものばかりだった。真夜が失敗する度に鬼たちは腹を抱えて大爆笑し、手を叩いて喜んだ。真夜は次第に、鬼たちは自分が失敗するのを見て楽しんでいるだけではないかと思うようになっていた。真夜がそれでも必死になって幾つもの課題をこなそうとしているのに、鬼たちは段々飽きてきたのか、一人、また一人と消えていき、最初と比べて観客数は明らかに少なくなっていた。
「…お前、なんにも出来ねえんだなあ」
真夜が打撲やら火傷やらで満身創痍になり、ついにその場に倒れた時、十六夜は呆れてため息をついた。
「…フツーの人間はそんなに色々出来ないもんなんだよ。」
地面にうつ伏せになったまま、真夜は吐き捨てる。
「無理だと解ってる割りにゃ意外に粘るな、すぐ根を上げるかと思ってたのに」
十六夜は笑いながら真夜の手を取って立たせる。
「特別に俺からのリクエストだ。お前の人生最大の『罪』と、向かい合って来るがいい。」
十六夜はふらふらの真夜の身体を振り回すようにしてから、パッと手を離した。
真夜の視界がブラックアウトし、一瞬身体が浮いたと思った。再び気が付いた時、真夜の周りの景色は、嫌と言うほど見慣れた彼女の中学校の廊下であった。

一瞬、真夜は現世に戻れたのかと思った。しかし、すぐにこの直前までいた賽の河原でのことや、十六夜の言葉を思いだし、がっかりした。
私の人生最大の罪。私は、万引きや盗みなんかよりずっと恐ろしいことをした。それは…

ぱしゃり。

妙に乾いたシャッター音がして、真夜は俯いていた顔をあげた。そこには、顔が隠れるほど大きなカメラを構えた明るい茶髪でショートカットの少女がいた。お父さんの部屋からこっそり持ち出して学校に持ってきているのだという。少女はカメラを胸のあたりまで外す。いかつい造形のカメラに隠されていた、チューリップのように可憐な笑顔が現れた。
「ごめん、ビックリした?暗い顔してると撮っちゃうぞ」
「ハル…」
懐かしい暖かな笑顔に、真夜の顔がさらに強張っていった。

「あたし、きれいなものが好きなんだ」
中学校の屋上。街が一望できるこの場所で、少し強い風に髪を乱されながらハルは語る。
「こんな景色とか、晴れた空とか、花とか、海とか、あと…人の笑顔とか?青春のヒトコマを切り取って自分のものにできるのが好き」
最後の一つは流石に気恥ずかしかったのか、冗談めかして、にやにや笑いながらハルは言った。
「キザっ!そして臭っ!」
真夜も笑ってツッコミを入れる。ハルも照れながら笑っていた。
笑い終わったら、ハルはちょっとだけ真剣になって真夜に言った。
「だから、色んなものを撮影してみたいな。そしていつかカメラマンになるんだ。あ、カメラウーマンか」
覚えたての英単語を織り混ぜながら夢を語ったハルは、その後真夜にも夢を聞いてきた。
「マヤはなんかなりたいものってある?」
真夜は首を傾げる。将来の夢。そんなの、考えたこともなかった。
「うーん…私は、まだ…」
「そうか」
夢がないことを詰るのでもなく、ハルはただ頷いた。
「何にでも、なれたら良いよねえ」

真夜の脳裏を、様々な光景がザッピングでもするように浮かんでは消えていく。いや、これは想像の中だけのことなのか?それにしては押し寄せてくる感覚はあまりにもリアルだった。まるで、過去にタイムスリップでもしたようだ。

その頃は、幸せだった。こんな私に、中学校に入ってはじめて友達ができた。元来のトロ臭さが災いして万年いじめられっこだったこの私に。だから、関わってほしくなかったんだ。
ハルは、明るくて優しい人気者だから、知らんぷりさえしていれば、そんな目に遭うこともなかったんだ。

きっかけは何だったのかすら覚えていない。ただ、気が付いたら真夜はクラスのリーダー格の女子、米沢に目をつけられ、クラスメートに無視されたり、聞こえよがしに悪口を言われたりしていた。時々持ち物を壊された。体育の時間から教室に戻ってきた時に教科書が全部墨汁色に染まっていた時は参った。トイレから出ようとしたらドアが開かなくて、夕方に掃除のおばちゃんに発見されるまで出られなかったこともあった。次の日には男子の間にも『下痢便シスター』の不名誉極まりないあだ名が浸透していた。
義務教育が始まって以来、大体そういう立場であったので、真夜自身としては慣れっこだったから誰にも相談しなかったのだが、ハルはクラスが違うのに真夜の置かれた状況を目敏く見抜き、真夜を助けようとした。

ある日何時ものように、真夜がガタイも態度もデカイ女子たち数人に取り囲まれて『死ね死ねバイ菌』と罵られていた時、またぱしゃり、と聞きなれたシャッター音がした。真夜も含めて全員がそちらを振り向いた。ハルが、決然とした表情でカメラをこちらに構えていた。
「あっ、こいつっ!」
米沢が止める間も無くハルに掴みかかろうとした。ハルはするりと身を交わし、職員室に一目散に走っていった。
いじめっこたちは真夜を差し置いて逃げるハルを追い掛ける。醜く肥った身体を揺らし、ようやっと職員室についた時には学校一コワモテの体育教師、赤木が仁王立ちして待ち構えていた。
「みんなでよってたかって一人をいじめていたというのは本当か?」
赤木は女子生徒にも容赦しないドスの効いた声で彼女たちを問いただした。米沢は舌打ちし、ふてくされたように言い返した。
「楽しくお喋りしてただけです」

ああ、全くおんなじだ。
真夜はこれから起こるであろうことを思い出して、自分が死んだ時より深く深く打ちのめされた。
寸分違わない。この日から、ハルの運命が変わってしまったのだ。

Vanity Fair 前編

参考:松井優征作品、鬼灯の冷徹


「これは命令よ」
従わなきゃ。
「それくらい出来るよねぇ」
従わなきゃ、殺される。

従わなきゃ、あの娘みたいに殺される。


~Vanity Fair~


真夜(マヤ)はそろりと、手近なコンビニエンスストアに入り込む。
「いらっしゃいませ~」
心臓が飛び出して無くなりそうな程、緊張している自分とは対照的に間延びした、何とも暢気な店員の声が出迎える。真夜は店員の目を避けるようにして、そっと店の奥に、ごく普通におにぎりを品定めしているカップルの後ろに回り込んだ。目標は最近話題の新商品、ジンジャーミルクティー。従来の商品にショウガフレーバーを加えただけの、真夜からしてみれば他愛ない代物だ。…そんな他愛ないもののために、これから自分がしなくてはならないことを考えると、泣きたくなってくる。さっきの店員がこちらを見ている気がする。店員だけじゃない、タラコか梅干しかで揉めてるカップルも、エロ雑誌を読んでるおじさんも、激辛カップ麺を興味深く手に取って見ているお洒落なお姉さんも、果てはこの店にあるジュースにおにぎり菓子パン雑誌に文房具、ありとあらゆるモノたちすら自分に向かって『近寄るな!近寄るな!』と警告を発しているようにみえた。
見つかったら警察に連れていかれるだろう。中学校も退学になるかもしれない。
しかし、『出来ませんでした』で許してくれる程、あの人たちは甘くないのである。
真夜は制服のジャンパースカートの裾をぎゅっと握り、意を決してガラス張りの冷蔵庫の戸を開けた。ミルクティーのペットボトルはわかりやすく、真夜の目線の高さにあった。真夜はそれを乱暴にひっ掴むと、それを守るように身体の前にぴったりと着け、何気ない足取りで雑誌コーナーを通って、ゆっくりと出口に向かう。自動ドアが音もなく左右に開く。
一瞬、真夜は上手くいったと思った。しかし、店の外へと一歩踏み出した瞬間、店員の声が真夜の背中に掛けられた。
「お客さん」
背筋から凍りつくように、真夜の身体は強張った。
「お支払い、済んでないですよ」
真夜は脱兎の如く駆け出した。
「こら、待てっ!」
お客さんからドロボウへ、認識の変わった真夜を、店員は追いかける。暢気そうな顔だと思ったが、やはり若い男性、長い歩幅で然して脚が早い訳でもない真夜との距離をみるみるうちに詰めていく。あの手が細い肩に触れたら、真夜はそれで終わりだ。切れかけた息、悲鳴のように痛みはじめたわき腹を全て無視し、真夜は必死に短い脚を動かした。
「待てーっ!」
ナントカの一つ覚えみたいに、店員はそれだけを叫びながら真夜を追い続ける。
諦めが悪い。
真夜はほとんど泣きそうになりながらただただ走る。
そんな真夜に、救いの手を差し伸べるように見えてきたのは、国道の広い道路を横切るしましまの横断歩道。そして、点滅する緑の人型。
やった!
真夜の目の前が少しだけ明るくなる。
歩行者用信号が赤になるまでにこれを渡れれば、多分私は助かる。
真夜は呼吸すら出来ない身体に鞭打って、ラストスパートを掛ける。横断歩道に差し掛かる。信号はまだ点滅している。店員はまだかなり後ろだ。半分…あと少し…信号が赤に変わった…もう少し…店員は為す術もなく対岸で立ち尽くしている…助かった…

パーッ!!!

耳をつんざくクラクションの音がやけに近くで聞こえた。

え?

真夜は右に顔を向ける。見たこともない程近くに、運送屋のトラックの、人の顔に酷似したバンパーが有った。

グシャ。

視界が真っ黒になった。




暫く経って、真夜は目を醒ました。
頭がくらくらする。
私、どうしちゃったんだろ。
真夜は身体を起こしてみた。ちょっとボーっとしている以外は、何の異常も無さそうだ。
しかし、ここはどこだろう。何にも見えない。見渡す限り真っ暗闇だ。
真夜は立ち上がる。やはり何も見えない。指を曲げ伸ばし、グーパーと形を変えてみるが、それすら真夜には見えなかった。
真夜はだんだん不安になってきた。口の中が異様に渇いて、舌べらが喉に貼り付きそうだった。
ほんの少しだけならバレないかな。
真夜はあのミルクティーを口にすることを決める。
しかし、そこで真夜は気が付いた。
ミルクティーが、見当たらないのだ。
自分がそこに『立っている』ことは自覚しているので、地面があるのだろうと思い、しゃがみこんで探ってみる。それでもミルクティーのボトルはどこにも無かった。
あの時に吹っ飛んだか、潰されちゃったかだな。真夜は推測した。
トラックに轢かれた時に。苦労したのに…
真夜はため息をつく。ついて、ハッと、恐ろしいことを思い出した。

トラックに轢かれたのに、何で私は生きてるの?

そこで真夜は思い出した。
けたたましい、クラクション。迫り来る、トラック。確かにこの肉体がトラックとぶつかった、衝撃。何かが徐々に潰れていく、鈍い音。経験したこともない、巨大な痛み…。

私は…死んだ…?

真夜があまりに絶望的な事実に気が付いて、恐怖に大きく目を見開いた時、若い男の声がした。

「やっと気が付いたかい」
「誰?!」
真夜が周りを鋭く見回しながら問うのに答えるように、声の主が姿を現した。
男の姿はこの暗闇の中、光を放ってでもいるようにはっきりと見えた。男は赤と白の市松模様の着物を片肌を脱いで着崩し、下の薄水色の着物を見せていた。足には高下駄。黄緑色をしたバサバサの頭には麦ワラのカンカン帽。そして…派手な色の髪の毛とカンカン帽の側面を突き破って伸びだしているのは、お伽噺の魔女のような紫黒色のねじ曲がった二本の角だった。
男はヘドロのようにどろどろに濁った瞳をギラつかせながら、真夜に名を名乗った。
「地獄の案内人、十六夜(イザヨイ)号さ。お前は黒田真夜、享年14歳で間違いないな?」
真夜は驚いて、またもや目を見開いた。
「何で、それを…」
十六夜はヤスリでも掛けているかのように鋭く尖った牙を全て見せつけるように、にぃまりと笑いながら答えた。
「お前の『担当者』だからさ。お前が死んで地獄に来たら、面倒を見ることになっていた。温かそうな家に大切に育てられていたようだから、逢うことはないと思っていたのに」
十六夜は何が楽しいのか、ニヤニヤ笑いをますます大きくした。真夜はそこで、十六夜に掴みかかる勢いで訊いた。
「そうよ!私が、死んだって、地獄に落ちたって?困るよ、友達は…居ないけど、お父さんだってお母さんだって悲しむし、やりたいことだってあったんだから!こんなとこで死にたくなんかないよ、ねえどうにかならないの?!」
十六夜は真夜の必死の訴えにも狂ったような微笑みを絶やさず、容赦無く言った。
「ここに若くして来たヤツは、みーんなそう言う。たまーに、望んで来たんだとか言ってる変わりモンもいるけどな。」
真夜は一瞬だけ、スカートの裾を握りしめた。
しかし、すぐに十六夜を見上げ、もう一度訊いた。
「本当に、どうにかならないの?私は、このまま死ぬの?」
十六夜は暖かみの欠片もない笑顔で答える。
「クドいガキだなぁ、そうだよ、お前はもう未来永劫父親にも母親にも会えずにこのクソみたいな地獄で朽ち果てていくんだ。血の池だの針の山だの、小さい頃話に聞いた通りのあらゆる責め苦を受けながら、両親が残りの人生を悲しみ抜きながらただ年老いていくのや、お前を苛めた奴らが大人になってのうのうと幸せになっていくのを何も出来ずに見てるんだ」
十六夜は実に愉しそうに絶望に歪む真夜の表情を観察しながら、真夜がより効率的に苦しむ言葉を探しているようだった。
「そ、そんな…」
真夜は思わずへたりこんだ。
ホントにどうにもならないことって、あるんだ。
そんなことは、充分すぎる程知り尽くしていた筈だったが、真夜は今まさに、本当に希望が絶たれるとはどういうことかを知った。
呆然として何も考えられない真夜に、十六夜は相変わらずの笑顔で語り掛ける。
「とはいうものの、地獄は昨今の人口増加でちょいとパンク気味でな。ちょっとした救済措置を最近取るようになったのさ。」
突然示された微かな希望に、真夜はすぐに顔を上げた。十六夜は続ける。
「多少悪いことした奴でも、世の中には凄い才能を持ったやつがいる。人を助けるために悪いことをせざるを得なかった優しすぎる奴もいる。そういう『ちょっと違う奴』を見つけ出して、本人の希望や死んだ状況を考慮して、天国行きか転生か、あるいは復活かを選ばせてやる制度が出来たのさ。」
真夜は復活の二文字に強く反応した。
「復活?復活って、生き返るってこと?!」
十六夜はすげなく返した。
「みーんなそれを望むが、それが一番難しいんだってば。解るだろ?メタメタに轢き潰されたミンチみたいな死体だの、水吸ってぷっくり膨らんだ土左衛門だの、そんなのがホイホイ蘇ってみろよ。現世がホラー映画になっちまう」
「う…」
真夜はつい想像して、吐きそうになる。それでも、真夜は気を取り直し、再び十六夜に向きあった。
「それでもっ、居ないこともないんでしょ?!だったらお願い、どうすれば良いのか教えて。」
十六夜は口のかたちを凶悪な三日月みたいに保ったまま、自分より随分小さな真夜を見下ろしている。
真夜は辛抱強く十六夜に頼んだ。
「教えて下さい。お願いします。」
十六夜はニカッと、今までよりやや感情のこもった笑顔を浮かべると、指をパチンと鳴らした。
その瞬間、二人を覆っていた暗闇が熔けるように崩れ去り、立っていた地面も消えてしまった。
「わっ!」
突如として襲ってきた浮遊感に、真夜は思わず十六夜の脚にしがみつく。十六夜は翼もないのに飛んでいた。そうして見下ろした先には、ナイル川も敵わないほど広大で雄大な河が流れ、畔には高層ビルの街が広がっていた。
「これが『三途の川』、周りのが『賽の河原』だ」
「…何だかえらく近代的なんだね」
十六夜は言った。十六夜は真夜を脚にくっつけたまま、ゆっくりと降下し、やがて一つのビルの屋上に脚を下ろした。
「亡者の救済措置はここで行われる。亡者が虚栄を張って鬼たちに精一杯自分を良く見せるショー、『Vanity Fair』にようこそ」
「…」
良く見ると十六夜と真夜が着いたビルはやたらと広く高く、まるでステージのようであった。彼女を好奇心丸出しで狙う奴らの目はすぐそこまで迫っていた。
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