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一次創作:社長様の恋

精読なさらないよう平にお願い申しあげる。これ、アウトかな…



「やあ、こんにちは」
呼び止められて振り向くと、全身赤い青年がにこやかな笑顔を向けていた。
「あ、ああ、やあ」
生まれてこの方、組織からの指令や仲間からの業務連絡以外で話しかけられたことなどなかった僕はちょっとびっくりして、ぎこちない返事をしてしまった。青年はトコトコとこちらに向かって歩いてくる。

攻撃、されるのか?

僕は殆ど本能的に青年に対して臨戦態勢を取る。こんな弱そうな青年一人、と思われるかもしれないが、たった一人の侵入者が組織を壊滅させることだって大いに有り得ることなのだ。決して自慢ではないが僕は今までに何人もの侵入者をこの手でほふって組織を守ってきた。なのにここのトップときたら、ホイホイ敵を招き入れるような真似ばかりする。
僕の殺気に気づいたのか、赤い青年は両手を挙げる。
「何だよ、オレにそんな意志も能力もないよ。組織、解雇されちゃったし。それに、」
青年は僕に人差し指を向ける。
「もし気づいていないなら言うけど、君だってそんな必要も能力ももうないんだよ。」
そう言われて僕は気がついた。
「あ、」
本当だ。僕はもう闘えないし、その必要もない。
組織の外に出ている時点で気づいても良かったのに。
すぐに構えを解いた僕に、青年はまた笑いかけた。
「ほら、だろ?用済み同士、ちょっとここに座って組織の話でもしないかい?」
僕は頷いて、青年と共に今足元にだだっ広く広がっている、不自然に白い野原に腰掛けた。

「随分顔色が悪いな、大丈夫か?」
青年は心配そうに聞いてきた。
「君のとこにも僕みたいのはいるんだろ?元々だよ」
僕はすげなく返す。組織からはぐれなくたって、どちらにしろ死ぬまで戦って戦って最期は無造作に廃棄される運命にあった自分の体調など心底興味がなかった。しかし青年はよほど気になるらしく、さらに聞いてきた。
「それにしても、だよ。君のトップは一体何をやっているんだ。」
僕は他人や自分、とにかくありとあらゆる全てにおいて無責任なトップを思い、自嘲的な気分になって笑った。
「僕がいることも忘れてしまっているか、知らないんだろう。そういう君は随分と赤々してるな。僕の組織の奴らとは大違いだ。」
気づいたことを指摘しただけなのに、青年は何が嬉しかったのか、やや誇らしげに胸を張る。
「ウチのトップは栄養摂取が大好きだから。君は彼女の料理を食べたことがないのかい?」
僕は記憶の糸をたぐってみた。生まれてから食べたことがあるのは、カップラーメン、ポテチ、コーラ、菓子パン各種。大体そんなもの。ひたすら炭水化物のフルコースだったのは間違いない。
「ない、と思う。だって、そんな美味しいものが仕入れられたなら、僕にも配られた筈だもの。少なくとも僕が配属されてからはないよ。」
「ふぅん…」
青年は腑に落ちない、と言いたげに顎に手を添えて首を傾げた。少々わざとらしい。
「何か?」
僕が聞くと、青年は疑問点を教えてくれた。
「いや、不自然だなぁって。彼女は自分で食べるのも大好きだけど、人に振る舞うのも同じくらい好きなんだ。恋人なら手料理くらい振る舞う筈だろう?」
僕には何も不自然とは思えなかった。僕のトップがどんな人物か、知っていればすぐに想像がつく。
「君のトップは、少ーしそこらへんの感覚が緩いのかもしれないな。まだ若いのか?」
僕はまた聞いた。
「ああ、うん。少女と言っても良いくらいだ。戻れたら、注意してやれるんだがな…」
「僕や君みたいのが指令部に訴えかけたとしても、何も変えられないだろ。ちょっと痛い目見れば変わるんじゃないか?君のトップも。」
「ああ…でも、まだ子供なんだぜ…」
青年は少し哀れむように、今は静かにそびえ立つ巨大な、しかし僕のよりは一回り小さな組織を振り返った。
僕も青年に倣って彼の組織を見た。表面は滑らかで手入れが行き届いていて、それだけでどれだけ彼女が優秀な指導者で、青年のような末端の部下まで気にかけているのかわかるようだった。青年がもう二度とは戻れない自分の組織をここまで慕う気持ちも分かる気がした。それに対して僕は、これまでついにそんな気持ちになれることはなかった。こんな人のクズみたいな奴のために最低限以上の仕事をしてやりたくなかった。いっそのこと総勢60億の仲間たち全体でストライキ起こして組織の機能を止めてやろうかとすら思ったこともあったのに。
自分の組織が大好きで、恐らく仕事に誇りも持っていただろう青年がふとうらやましくなって、そんな言葉が口をついて出た。
「次の人生があるとしたら、君の組織のようなところに勤めたいな」
青年はニッコリ笑って言った。
「ああ。オレはとても幸運だった。」
しかし、青年の笑顔はすぐに陰ってしまった。
「でも…オレが居なくなった後の彼女や組織が心配だ。今回のことで、その…彼女が少々向こう見ずと言うか、後先考えずに行動してしまう所があると露見しただろ?悪いことが彼女に起こらなきゃいいが…」
「君には何も出来ないだろ」
僕は先程よりは穏やかな口調を心がけて冷たい事実を口にする。彼の心配は痛いほどわかるが、それが現実なのだ。
「それは、そうだけど…」
青年は諦めきれずに組織を見上げる。そして、あることに気づいた。
「そうだ!まだ門は開いている!」
霞むほど高いところにあるが、なるほど確かに、彼が出てきたのであろう切れた部分は未だに赤く輝いていた。
青年は立ち上がる。
「こうしちゃいられない、オレ、もう行くよ!」
「君、まさか…」
僕が聞こうとすると、彼は返事すら待たずに大きく頷いた。
「オレの最期の仕事さ。今からオレはあの門から組織にもどる。司令部にまでなんて行けないのはわかってるよ。でもあの門にはオレの仲間たちがいっぱい屯している、組織中を俊足で駆け巡って物資を運ぶ誇り高い仲間たちが!そして、司令部まで伝えてもらうんだ、今まで通り組織にとって良い指導者で居て下さいってね」
僕は何も言えなかった。
僕は最前線で組織を守る仕事をしていたからわかる、トップの性質にも寄るが、組織の防衛機能は殆ど完璧だ。それは僕のようなものたちが侵入者全てに対して冷徹に対処するからだ。今まで一度外に出た組織の者が再び戻ってくることは例がないことだった。しかし、恐らく彼の試みは成功しないであろうと僕は確信を持っていた。彼は気付いていないのだ、自分は既にもといた組織にとっては異邦人であることに。防衛機能に携わる者たちの冷酷さ、融通の利かなさに。
それでも僕は頷いて見せた。使命に燃える彼に何をいっても聞かないだろうし、それに…彼は今まで組織の為に身を粉にして働いてきたのだ、最期に夢を見る権利くらい与えられても罪はないのではないか。
青年はこの朗らかな笑顔で駆け出した。
「オレは絶対彼女を救ってみせるぞ!君も、ありがとな。最期によその組織の奴と話が出来て楽しかった!」
彼の動きの早いこと早いこと、この言葉を言い終える辺りにはもう組織の滑らかな断崖絶壁を登り始めていた。

暫く僕は青年を見送っていたが、その小さな姿が見えなくなったあたりでその場に腰掛けた。
心なしか、辺りが明るくなってきたように感じる。朝とかいうやつか。話には聞いていたが、実際見るのははじめてだ。美しいが、些か僕には眩しすぎる。
僕にはやるべきことも、やりたいことも、やれることも残されてはいなかった。あるのは果てしない自由と、だんだん強くなってきただるさだけだ。出来ることと言えば、ちょっと一眠り。そんなところだろう。

金色の光の射し込む中で、僕はゆっくりと目を閉じた。
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