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暗殺教室(杉神):夜の喫茶店

セラニポージの『夜の喫茶店』歌詞一部引用。本誌バレ、アンハッピーエンド注意。でもコメディのつもりで書いてます。

凸と凹がなんか噛み合ってない
エラー続きのキャッチボールは息切れ寸前

最初は、二人とも笑顔だったんだ。
待ち合わせ時間にオレが一分遅刻したけど。言い訳させてもらえば、昨日楽しみすぎて明け方まで眠れなかったんだよ。やっと眠くなってきたのが朝四時くらいで、目が覚めたら九時半、待ち合わせ30分前。慌てて着替えてトーストかっこんで家を出た。ろくに鏡を見ることもしなかった。
ハチ公前で待ち合わせて、神崎さんは開口一番、しとやかに微笑って言った。
「寝癖がついてる」
その時は、そんな失敗もささやかな笑いの種だったんだ、それなのに。

オレはコーヒーを、神崎さんはミルクティーを30分も前に飲み終わっている。白いカップの底にへばり付いた澱はカッピカピに乾いて今のオレらを取り巻く空気のようだ。  

思うに、オレらの空気が悪くなり始めたのはあのクソみたいな恋愛映画のせいだ。カップルで観るなら今一番人気の恋愛映画しかないだろうと、安易に考えたのが悪かった。ヒロインは男に頼りっきりの依存体質だし、男の方はラリだったし、オマケに濡れ場はべちゃべちゃと冗長で変にイヤらしい。一人だったらウヒョーとか鼻の下も伸ばしたかもしれないけど、隣に付き合い始め二週間の彼女がいる時にそんなもん見せられたら気まずくて気まずくて。ちゃんとR指定出しとけよ、何であんなのが人気なんだ。

沈黙を誤魔化すため…そしてなぜかやたらと喉が渇くためさっきから水ばっかり飲んでいる。「ここの水レモンが利いてるね、ちょっと塩素臭もするけど」「うん、そうね…」そんな会話をしたのも、そしてそれで終わってしまったのもいつのことだったろう?オレはもう、クエン酸とClの薫る水のせいで水中毒になりそうだ。これはアレだ、水ジャンキーだ。…。ああダメだ、ちっとも気が利いてない。気が利かないと言えばこのBGM!何だよさっきから『アゲ↑アゲ↑ラブ☆ラブ☆』って!人気らしいのは知ってるけど明らかに合わねーだろこの喫茶店に。ほら、角の席に座ってるマダム集団だってすっげー微妙な顔してるし…。

「水どうぞ…いや、紅茶の方がいいか?」
ギャルソン衣装に身を包んだクラス委員の磯貝が、ついに空になってしまったグラスに水を注ぎにきた。
ちょっと前に磯貝のバイトが生徒会長の浅野にバレて騒ぎになったが、よりによってこの喫茶店が、磯貝が働いてる喫茶店だったとは。しかも今日がシフトだったとは…。
他人の様子に機敏に動く磯貝のことだ、オレたちの空気にも確実に気づいているだろう。というか、囁くような声の調子が、言葉が、眼差しが、明らかに気遣いにかかっている。オレは言う、
「良いよ気を使わなくて」
「…そうか。…悪い」
磯貝は静かに二人のグラスに水を注ぐと、暗殺訓練で身に付けたサイレントな動きで店の奥に引っ込んでいった。

…無意識だったけどなんだあの乱暴な態度は!たまによくいる店員には横柄になるヤな男みたいじゃねーか!!神崎さん、嫌な気持ちになったろうな…オレに失望したかもしれない。
いやそれより磯貝にも申し訳無さ過ぎだろ!明日クラスでどう接すりゃいいんだよ!!

ああ、ダメだ。何かしようと、何か変えようとする度にどんどん雰囲気が悪くなっていく。



二人して何にも言えないまま、レシートだけがひらひらとはためいている。
私たちの座っている席はちょうど、冷房の前だから。寒い。乾いて冷たい空気は、今の私たちの雰囲気に良く似てる。
さっきから、何度も夏用カーディガンをかきあわせてみるけれど、オシャレに特化したレースのそれは、ちっとも役に立たない。
私は小さく、何度目かも解らないため息をつく。

最初は、二人とも笑顔だったの。彼が一分遅れてきたけど、そんなのは。でも、彼の寝癖がついた髪の毛とか、口元にちょっとついたパン屑とか、お父さんの…とは云わないけど、サイズが合ってないサンダルとか目に入った瞬間、心の奥の奥底、ほんの少し、ちくりと針みたいなのが刺した気がする。
久しぶりにお化粧するから、思い切って新しいコスメ買って、今朝は一時間くらい鏡の前にいたのに。
そんな感情を振り払って、笑ってみせたら、杉野くんはいつもの明るい笑顔をしたから、それでも良いかなと思えてきて、手をつないで映画館に向かったの。
映画館にはいくつか新作がやっていて、杉野くんだったらシリーズ6作めのハリウッド・アクションか、有名漫画の実写映画を選ぶかなと思ってたんだけど、杉野くんは所謂「今夏、一番泣ける恋愛映画」のポスターを指差した。今思えばアレ、私に気を使ってくれたのかなあ。実は私、そんなにこの手の映画観ないんだけど、ちょっとだけ興味もあったし、断る理由はなかったからそれにした。
感想は…うーん…
これで泣ける人がいるのは否定しないけど、私は好きじゃないかも。
私にとってはそれ以上それ以下でもなかったんだけど、杉野くんが気まずがっちゃって。ちょっと大人っぽ過ぎるシーンもあったし、ってのは解るんだけど、あんまり謝ったり恥ずかしがったりするものだから、なんだかこっちまで気まずくなっちゃった。

沈黙を誤魔化すために、私は水ばかり飲んでいる。グラスに口を付けながら彼を盗み見ると、彼もおんなじようにグラスに口を付けている。動きだけならこんなに、こんなにシンクロしてる、のにね。
「あー…メジャー行った田代、全治一年だって」
杉野くんは唐突に、思い出したみたいに言う。
「そうなの。心配だね」
田代選手の顔もそんなによく解らないけど、私は言える精一杯を返す。
「…」
…もしかして、冷たく聞こえたのかな?彼はまた喋らなくなってしまった。
だって、私野球はルールもよく知らないもの。それは、恋人の杉野君が好きでプロも目指してるスポーツだもの、覚えようとは努力してるわよ?でもわからないものはわからないの。
暗殺のこととか、受験のこととか、そんな些細なことで良いの、他に何か無いのかな。

…私、とっても嫌な女だ。自分は悪くないって?悪いのは彼、だって?
杉野君もそういうの見抜いてるから、気まずくなってるのかもしれない…

磯貝くんがお水を注ぎに来てくれた。ここ、磯貝くんがバイトしてるお店だったんだね。磯貝くんにも、気を遣わせちゃったな…

話題を思い付いてるなら、私から話せばいいだけのことよ。ほら、また大きな暗殺計画の話が持ち上がってるじゃない。杉野君は何をやるつもりなの、とか話題に出来ることは沢山ある。よし。

私は思い切って口を開く。
「「あの…」」

彼が、
   彼女が、
      同時に喋ろうとする
俺たち、
   私たち、
      こんなにシンクロしてるのに

手振りで相手に「お先にどうぞ」と合図を送る
でもやっぱり二人とも何も喋れない

有りがちな夜の喫茶店、どこにでもある喫茶店の窓際、恋の尻尾が逃げていく。
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