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暗殺教室(木桃):四畳半桃源郷

文章リハビリ。本誌バレ注意。両片思いの楽しさが伝われば…うーん、どうでしょうか?イト狭といい原作であまり絡んでないカプが意外と描きやすいのは何でだろう…夏休み明け直ぐの設定。付き合ってはいません。桃花ちゃんの親戚と名前の由来捏造。私の小説は何か食べてるのばっかりだ。


「だりぃ…」
目の前には、見慣れすぎた四畳半の所々雨漏りと思しき染みがついた、白い天井が広がっている。枕元に置いてある、メタリックで無骨なデザインの目覚まし時計を見ると、午後三時を示していた。
俗に言うおやつの時間ではあるが、全く腹は減らない。頭が重くて身体が熱くて喉が痛くて、とてもじゃないけれどお粥よりソリッドなモノを口に入れる気にはなれなかった。

全く、虚弱な体で参っちまうよ。

木村正義は溜め息をついた。

新学期が始まったと言うのに、毎日、熱帯夜。寝苦しさに耐えかねて、それでもこの物騒なご時世窓を開けて寝ることなんて出来なくて、不経済だと思いつつクーラーを付けっぱなしにして腹を出して寝ていたらほら、一晩でこのザマだ。

立派に夏風邪患者の一丁あがりである。

「じゃすてぃすー、具合どう?」
コンコンとドアをノックする母親、返事も訊かずにそのまま開けて入ってくる。

その名前で呼ぶな。

言おうとした言葉は言語にはならず、ガラガラに乾いて血の味がする喉から代わりに出てきたのは数回の咳だった。

「その様子じゃまだまだ悪いみたいね」
母親は小さく肩をすくめつつも、正義の頭の下に敷いているグニャグニャにふやけた温~いアイスノンを、持ってきた新しいものと取り替えてくれる。気遣うようにさらりと額に宛てられた手は、柔らかくて温かだった。

愛しては、くれてるんだよなぁ…

窓を開けて換気、ついでに軽い片付け、とテキパキ働く母親の背中を眺めながら、正義はぼんやりと思った。

「何か食べたいもの、ある?」
散らばっていた教科書をきちんと本棚に仕舞い終えた母親が訊いてきた。
「ない…」
嗄れた声で弱々しく首を横に振りながら正義は答える。母親は「果物でも買ってくるか…」と一人で呟きながら部屋のドアを開けた。
その時。

ピンポーン。

玄関のチャイムが軽やかに鳴った。
「はーい!」
母親は裏声で答えて、ぱたぱたと階段を降りていった。しばらくすると、玄関先で母親とお客の談笑する声が微かに聞こえてきた。お客の声は、学校でよーく聞き慣れた高くて可愛い声。…まさか。

正義は関節がビシバシ痛むのを我慢してベッドから身体を半分起こして、耳をそばだてた。

「まあ、じゃすてぃすの…」
「今日の宿題と授業のノートです。あ、あとこれ、お見舞いに…」
「あらあらありがとう!ちょっとだけでも上がっていってくださいな」
「いえっ、木村君もしんどいんだし、悪いですよ!」
「遠慮なんかしなくていいの、じゃすてぃすだって可愛い彼女の顔見た方がきっと元気になるし!」
「かの…?!彼女っ…えー」

や、や、やりやがったあのババア!!

正義は声にならない叫びを挙げる。
クラスメートの前でのじゃすてぃす呼びだけに留まらず、よりによって、矢田に向かって『彼女』だと?!

結局断れなかったらしく、矢田桃花が母親に伴われて階段を登ってくる軽い足音が近づいてくる。
正義は慌てて薄い夏布団を頭までひっかぶる。
それから数秒もしない内にがちゃり、ドアが再び開いて、果物ナイフと皿を持った母親と、その後ろで恥ずかしそうに頬を赤らめて縮こまっている見事なポニーテールの少女が入ってきた。
「じゃすてぃす、お客様よ」
母親はニッコリ笑って言った。
「…」
正義は恨めしそうに布団から目までを出して母親を睨みつけた。母親は意に介さない様子でベッドサイドのモノが置けるスペースにナイフと皿、桃花から受け取った甘い香りのするビニール袋を置いて、パチンと意味ありげにウインクする。
「あとは若い子に任せて…母さん買い物して来るわ。」
パタン、ドアが閉められて、二人がいる四畳半の部屋は、完全に外界から閉ざされた。

「…」
「…」

正義も桃花も、暫くは黙ったままだった。特に桃花はネイビーブルーの無地のカーペットに視線を落としたまま、ぽかーんと突っ立っている。

「…あー…座って、どこでも」
正義が静寂に耐えかねて、口を開いた。運良く手を伸ばせば届く所に放ってあった平たいクッションを掴んで、桃花に投げて寄越してやる。
「あ、うん、ありがと…」
桃花は我に返ったように顔を上げて、クッションの上に正座して座った。
「ごめんな、うちの母さん思いこみ激しくて」
正義は心底からすまなく思い謝る。桃花はブンブンと、ポニーテールが左右に旋回するほど首を強く横に振る。
「ううん、全然。具合はどう?」
桃花が訊くのに、正義はアメリカ人みたいに大仰に肩をすくめて答えた。
「全然ダメだよ。熱が下がらない。身体はどこもかしこも痛いからあんまり動けないし…あっ、だから早く帰れとかそういう意味じゃないから!ごめん」
クッションから少し腰を浮かせた桃花に過剰反応して、正義は急いで謝る。桃花は驚いた顔で、きっちり脚を揃えすぎた正座をアヒル座りに崩し、クッションに座り直した。
それから、フフっとちょっとだけ笑った。
正義も恥ずかしそうに緩いモヒカンの頭を掻きながら、笑った。

「ビニールの中身、何?」
正義が訊くと、桃花は笑顔になってビニール袋を手に取り、左手で中身を取り出した。ふっくりと丸い、薄紅色の果実。
「水蜜桃だよー。親戚のおじさんが送ってくれたの。食べれるなら、剥くよ」
用意の良いことに正義の母親が持ってきてくれたナイフを右手に取りながら、桃花は言った。
「悪いな…本当にそんなつもりじゃなかったんだけど」
母親は桃花を正義の彼女と思い込んでいるので二人に気を遣ってそうしたのかもしれないが、実際はそうではないのでこれではまるっきり、お客さんに桃を剥かせる図々しい親子だ。とは言いつつ、いつも気になっている少女に何かをしてもらうというのも滅多にない素敵な機会だった。
正義は複雑な気持ちで、手慣れた手つきで桃の皮を剥いていく桃花の真っ白い手元を見つめていた。
脳天までかと思うほど、ぎっちり詰まった鼻水の所為でバカになった鼻でも、ふわりと広がる瑞々しい甘い香りは感じ取れた。桃花は嫌な顔一つせずに、白くて柔らかな果肉を切り分けていく。
正義は少しだけ、もう少し幼い頃やっぱり風邪をひいて寝込んでいた時、枕元でりんごを剥いてくれた母親の姿を思い出す。しかし、桃を剥いている桃花に感じる思いは、母親に対するそれとは少し違った。

恋人とか奥さんとかって、こんな感じだろうか?

そんなことをぼんやり思う。
そして、自分が今何を考えたのかに気づいて、正義は慌ててぶんぶんと頭を振る。振動が熱で弱った脳みそにガンガン響いて予想以上に痛かった。
「はい、出来たよ。…大丈夫?」
綺麗にカットされた桃を笑顔で正義に差し出した桃花は、俯いて頭を押える正義に心配そうに訊いた。
「だ、大丈夫。ありがとう」
正義は苦笑いをして、一切れ指で摘まんで齧る。桃特有の、混じりけのない清い甘さがたっぷりの果汁と共にじゅわっと広がった。
「…旨い!」
「良かったあ」
桃花がにっこりと、咲き立ての花のように笑った。
「矢田の親戚のおじさんすげえな」
桃は味にばらつきがあるものだが、こんなに旨いのは久し振りだ。喉が痛いのも胃が弱っているのも忘れて、ついもう一切れに手が伸びる。
「私も良い?」
桃花も一切れ摘み上げた。それを食べながら、桃花は言った。
「桃には、悪いものを祓う力があるんだよ」
「そうなんだ」
「桃太郎は鬼を退治するし、古事記のイザナギは桃を投げつけて黄泉の国の鬼を追い払うでしょ?」
「確かに…」
何が病人なんだか、元気に三切れ目を口にしながら正義は桃花の話を聞いていた。そして、不意にある一つのことを思い出す。
「矢田の下の名前ってとうかだったよな。桃の花で。それも何か意味があるの?」
正義が訊くと、桃花は「狙い通り」とでも言うように、悪戯っぽくニヤッと笑った。
「実は、あるの。私生まれた時未熟児でね、生きるか死ぬかもわからない状態だったんだって。それで、桃に魔除けの力があるって話を思い出したおじさんが、つけてくれた。おかげでこんなに元気に育ちました。」
「そうだったんだ…」
その話は、聞いたことがなかった。正義の知る限り、他の誰に話したこともないだろう。
「良いな、そんないい名前つけてもらえて。俺なんか正義感に舞い上がった親がマタニティハイでつけたDQNネームだぜ?」
文句言うと「親のつけた名前に不満を持つなんて」とか叩いてくるし。本当に、愛されていないわけではないんだろうけど。
しかし桃花は、にっこり微笑んで言った。
「私は、嫌いじゃないよ」

桃は程なくして、綺麗に食べ終わってしまった。
「あ、そうだ私、塾があるんだった」
ナイフと皿を綺麗に重ねながら、正義の目覚まし時計の示す時間に気づいた桃花は言った。
「マジか、ごめん、引き止めちゃったな」
桃まで剥かせちゃったし、と正義が謝ると、桃花はまたポニーテールがゆらゆら揺れるほど首を横に振った。
「良いの。私がしたかったことだし…」
それから、桃花はベッドに横たわった正義にすっと近づいた。
「?」
「風邪、早く治ると良いね」
「?あ、ああ…」
「これはお呪い」
そう言って、桃花は正義の両手を自分のそれぞれの手でそっと握り、自分のおでこと正義のそれをこつんと軽くぶつけた。

「…!!!」

突然のことに、驚いて真っ赤になって目を白黒させている正義に、桃花はちょっとだけ恥ずかしそうに微笑った。
「私も、『桃花』だから。魔除けの力が宿ってたりしないかな、なんて」
「…」
「じゃあね、また明日!」
桃花はスクールバックを持って、慌ただしく部屋を出ていった。

「…」
ドアが閉まって、再び静寂が訪れる。
正義の四畳半の部屋に残されたのは、甘い桃の香り。桃花の、香り。
正義はゆっくりと、両手を握って、緩めてみる。それから、今や風邪とは無関係にやたらと熱い額に手を当てる。
思い出すのは、今しがた桃花に握られた手の温もりと、こつんとぶつかった彼女の額の感触。

…魔除けって。でも、あれって。

体温が前より上がってしまったらしく、身体がぽっぽっと熱い。正義は恥ずかしさのあまり身体を前に折って、顔を布団に埋めた。布団のさらさらと冷たい表面が、火照った顔には気持ちいい。

意識、してないのかなあ、だって彼女でも何でもないもんなあ、ただのちょっと仲が良いクラスメートだもんなあ、矢田にとっては俺は。
困ったなあ。治って学校に行ったとして、矢田とまた普通に話せるだろうか?

ガシガシと汗ばんだ頭を掻いて、正義は身体を起こす。そして独り、呟いた。

「全く、余計熱が上がっちまうよ」



(桃は英語圏においては、傷みやすいが美しく美味しい果物から古い俗語で「若く魅力的な娘」を表す。)
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