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暗殺教室(村松+フレンズ):ラーメン・キュイジーヌ~15歳の聖戦~

村松君のささやかなる反抗・成長、友情そして父子の愛情モノです。捏造設定・オリジナルキャラあり。NL描写はいくつかのカップルでほんのりありますが、主役の村松君絡みでは無し、ごめんなさい。ラーメンのだしの取り方とかはテケトーなので申し訳ないですがツッコミは不要です。原作でいつかはやりそうなネタだけど、ヤられる前にヤる。時にひょうきん、時に世話焼き、ちょっぴりセクシーなネタまでくれる村松君に感謝を込めて。お誕生日おめでとう。


「不味い。相変わらず面白くないラーメンだ」
イトナが淡々とラーメンを啜りながら言う。腹は立つが、既に日常の風景と化しているため、村松は洗い物から手を止めもせずに返した。
「ラーメンに面白み求めてどーするよ。大体おめー、いつになったら食事代払うんだ。吉田んとこでバイトして金は貯まってきたんだろ?」
「ケチくさいこと言うなよ」
イトナは不味い不味いと言いつつご丁寧にスープまで綺麗に啜っている。口元が少し笑っている。

冗談か本気かわかりづらい奴だが、とにかくタダメシで済まさせる気はさらさらねえからな。

村松はため息をついて皿を乾燥機にセットしていく。その時、とんでもなく素晴らしいアイデアを思いついた。村松はニヤリと笑う。
「何だ突然ニヤニヤし出して、小悪党面がまた加速するぞ」
「イトナ、条件付きでラーメン代チャラにしてやっても良いぜ」
イトナの毒舌はスルーして、村松は言った。
「ほー?」
イトナが顔を上げて村松を見る。村松は続けた。
「さっき礼服着て出掛けたの見てたと思うけど、明日の夜遅くまで親が留守なんだ」
「…」
「だから明日は臨時休業の予定なんだが、こっそり俺らで新作ラーメン作って売り出してやろうと思ってな。もし上手く行けばあの頑固オヤジも考えを変えるかもしれねえ」
「…で、俺にタダ働きさせようということか。だが俺は料理なんて人に出せる程は出来ないぞ」
イトナが言うのに、村松は首を数回、ゆっくりと横に振った。
「ちげえよ。…必要なのは、お前の鋭い味覚だ。今から翌朝開店までの十五時間、色々作ってみるからそいつの味見をしろ。で、何が足りないか評価してくれ」
イトナは今まで松来軒で食べたラーメンの杯数を指折り数え、それ掛けることの値段と空中に式を指で書いて計算する。そして、眉根に激しく皺を寄せた。
「十五時間夜間労働で今までの食事代一万円強だと?お前は野麦峠の工場主か」
憎まれ口を叩くイトナに、村松は舌打ちしつつも妥協案を出してやる。
「うるっせーな、野麦峠みたいな名前してる癖に。じゃあ、中学終わるまでラーメン代タダ!これでどうだ」
イトナは少し考えて、偉そうに腕を組んでふんぞり返った。
「まあ、良いだろう。コイツよりマシなもの食わせてくれるんだろうな」

そうして、地獄のような夜が始まったのだった。…村松にとって。

それから数時間、村松はがらんとした夜の店で一人、鶏ガラやら香味野菜やらを煮込み、麺を打ち、試作品第一弾を作った。その間イトナは、風呂に入ったりラジコンを弄ったり、村松が大切に進めていたギャルゲーを村松が意図しない女の子(名を、ゴリ山岩子という)のルートでクライマックス近くまで勝手に進めたりと気ままに過ごしていた。
「出来たぜ!!」
日付も変わろうかという頃になって、村松はイトナを呼んだ。
イトナはカウンター席に座ると、箸を取って出されたラーメンを啜る。
「どーよ」
村松は訊いた。イトナは一旦箸を置いて言った。
「悪くはない。でも、色々足りない。何度も言ってるが、安いブロイラーのガラでは香りがぼやけてしまう。」
村松は考え込む。
「…わかってるんだが、材料が限られてるんだよ。小遣いも香味野菜とか色々揃えたらそれで終わっちまったし」
「なら他の部分でカバーするしか無いな。丸鶏はあるか?甘味が出るが」
イトナがアドバイスをくれる。
「あ、多分ある。」
「丸鶏を使って、昆布や豚骨で旨味やコクを補強すればいい」
「うち豚骨置いてねえんだよ、ラーメン屋でそれはあんまりないと思うけど。」
「そうか。…なら魚介だしなんか使うんだな。それと弱い香りを誤魔化すためにその沢山買ったっていう香味野菜をもっと多く増やせ。」
イトナは村松が出来ないと言ったことに対しても少し考えただけで、素早く代替案を出してくれる。

…コイツ何でそんなに知ってるんだよ。

的確…かどうかはまだわからないが、一口食べただけで予想以上にポンポンと様々なアイデアを出すイトナに、村松は舌を巻く。
「…もうお前が作った方が早いんじゃねえか?」
ちょっとした悔しさ紛れにからかってやれば、イトナは真面目な顔で言い放った。
「俺はお前程料理が出来ない。その材料をどれくらい入れれば思い描いた味になるのか解らない。甘えるな」
…仰る通りで。

村松は、イトナがくれたアイデアを元に、また作りなおす。より多くの試作品を作るため、待ち時間の多い段階では時間差で、また新たなスープを仕込み出す。いつの間にかイトナはカウンターに突っ伏して眠ってしまった。ガキめ、と悪態つきながらも村松は寸胴の中のスープを一生懸命にかき混ぜていた。
やがて煮えた、イトナのアドバイスに従って作ったスープを、村松はお玉に少し取り、味見をしてみる。
「!」
これは!!
口中にふんわり広がる鶏の旨味と甘味!多めに入れた野菜の香りがブロイラーの安っぽさを見事打ち消している!!カツオと昆布の風味も後を引く旨さだ。これはイケる…

村松は意気揚々と、すっかり夢の中の住人になり果てているイトナの肩をバシバシ叩いて起こす。迷惑そうに半開きの目で睨みつけてくるイトナに、村松は嬉しそうに言う。
「すげえのが出来たんだよ!」
イトナは眠い目を擦りながら、椅子の上で姿勢を正す。
村松はスープや麺が多少辺りに跳ね散らかるのも構わずに、丼にバサバサっと盛りつけていく。そして、出来立て熱々の試作品第二号をイトナの目の前に置いた。イトナは再び箸を取って麺を一掬い啜る。
村松は期待を込めてイトナの表情を見つめている。
「どうよ、イケるだろ?」
イトナはラーメンには不必要なくらいじっくりと咀嚼していたが、やがて顔をしかめた。
「鶏の安っぽさは気にならなくなった…が、今度は野菜臭い。野菜由来の甘味が強すぎる。流石に多すぎたな」
「そうかよ…」
会心の出来だったのに。
村松は内心ガッカリしながら、イトナの丼を片付けようとする。しかしイトナは村松の手を押し止め、もう一口食べながら言った。
「使う野菜の種類や比率も、考えた方がいい。甘味を出しやすい玉葱や人参は量を減らして、ネギとかニンニクとかを増やした方がシャープになると思う」
「…わかった」
村松は答えて、もう一度厨房に向かった。

それから何杯か、村松が作ってイトナが味見する、のルーチンが繰り返された。村松は出す度にこれこそは、今度こそはと思うのだが、イトナが納得することは決してなかった。必ず何かしらあらを探して指摘する小姑みたいな友人に、村松も次第に苛立ってきた。

「空が、白んできた…」
店中の寸胴に満たされた失敗作のスープたち。厨房に溢れかえる野菜や鶏ガラの断片。村松は精も根も尽き果てて、作業台に肘を着いてぼんやりと、東の地平線が明るくなってきた窓の外を見やる。
「雀の囀りも聞こえるな」
何杯めかわからないラーメンを、イトナは啜りながら呑気に言った。イトナは出されたラーメンを全て、残さず平らげていた。
村松はきっ、とイトナを睨みつける。疲労と苛立ちがピークに達し、思わず鋭い言葉が口をついて出る。
「てめえ、テキトーなこと言って遊んでんじゃねえぞ?!こちとら真剣に店のこと考えてやってんだ、お前にムダにタダメシ食わすためにやってんじゃねえ!!」
言ってしまってはっと口をつぐむ。
これは言いすぎだ。いや、言いがかりだ。
案の定イトナは怒ったらしい。丼をカウンターに置いて、氷みたいに冷ややかな無表情で、村松を見据える。
「そういうことを言うのなら、俺は帰る」
「…」
帰ると宣言したものの、イトナは席を立たなかった。
夜明けの店を、重く冷たい沈黙が満たしていく。

でも、もうどうすりゃ良いんだ。イトナがどういう正解を求めているのか、俺にはわからない。

時刻は6時5分。開店まで四時間を切った。あと一回試作品を作るのが精々だ。買い置きの材料だってかなり使ってしまった。売れなかったら、親父にすげー怒られるんだろうな。

追いつめられた村松は、作業台に額まで着き、キャラメル色した頭を抱える。

何か…何か手はないか。コイツを唸らせることが出来て、客を沢山呼べて、親父を納得させられる、旨いラーメンを完成させる術は。

その時、村松の目に、ある材料が飛び込んできた。どこの家庭にもあるような、平凡なそれ。しかし、それを見た瞬間、村松の舌に脳裏に、素晴らしい味のイメージが広がったのだ。
「これだーッ!!」
イトナが目をパチクリさせて驚いているが、構うもんか。
村松は再び、包丁を手に取った。

…村松が何に目を付け、それをどう使い、どんなスープを完成させたのかは彼の企業秘密であるから、それについては伏せることにする。しかし三時間後、次第に日が高くなり、すっかり明るくなった松来軒の店内で、村松から差し出された最後の一杯を啜った時、イトナはニヤリと笑った。
「…及第点だ。」
親しい者に対してはややツンデレ気味な彼の言う「及第点」は、「すんげー旨い!!」と同義だと考えて良い。村松もつい、ニヤリと笑って言った。
「ザマァ見やがれ。」

その時、ガラガラと音を立てて店の入り口の引き戸が開いた。
「邪魔するぜ!!」
お、おいもう客が来たのかよ、気が早えよ、ていうか「支度中」の札出てただろ?
数秒間脳内で慌てふためいた末、やっぱり小物悪役みたいな笑みを浮かべて「すみませ~ん」と来客の顔を見た村松。そこには何と、いつも連んでいる寺坂竜馬がデカい顔にニヤニヤ笑いを浮かべて立っていた。
後ろには吉田、狭間の姿もある。寺坂グループ勢揃いという訳だ。
寺坂は言った、
「なんか面白そーなことしてるらしいじゃねえか」
吉田が続けて言った、
「前の晩からも呼んでくれりゃ良かったのに」
狭間も暗い微笑みを浮かべて言った、
「あんたたちが店ブッ壊したりしないように、監督責任が私にはあるからね」
「お前ら…何で…?」
村松が訊くと、後ろで相変わらずラーメンをずるずる食べていたイトナが淡々と答えた。
「俺が呼んだ。お前と二人だけで店切り盛りするなんてまっぴらだからな」
イトナは丼を抱え上げるようにして中のスープを飲み干してしまうと、立ち上がった。
「四人も居ればもう大丈夫だろ。俺は帰って寝る」
そう言って店を出ようとするイトナの肩を、寺坂が片手で掴んで引き止める。
「おめーこれまで食ってただけだろ」
「ここまで来たら最後まで手伝ってやろーぜー」
吉田も笑ってイトナを諭す。
「15時間その場に居るだけでも大変なんだぞ…」
イトナも恨めしそうに言いながらも、寺坂と吉田に言われては仕方なく残ることに決めたらしい。
「私、原呼んでくる。愛想が良いのが一人は居た方がいいからさ」
狭間が携帯を取り出した。
「ああ、頼む。」
吉田が答えた。
「よっしゃ、張り切っていくぞぉ!!」
寺坂が拳を挙げる。
「何でお前が仕切るんだよ!」
村松以外から寺坂にツッコミが入った。それから、口々にリーダー・村松に指示を仰いだ。
「俺は何をすればいい?」

村松は、仲間たちの真剣なまなざしを見て驚いた。それから、徹夜の疲れも忘れて心底楽しそうに破顔した。

…俺には、こんな頼もしいヤツらが仲間に着いていたのか。

「じゃあ、寺坂と吉田は厨房の片付け、イトナと狭間は客席の掃除!成功したら、お前ら未来永劫、ラーメン代タダにしてやる!!」



「いらっしゃいませ~!!」
開店時間。「支度中」の札が「商い中」にひっくり返され、少年少女たちの明るい声が響いた。
カランカランと呼び鈴の音がして、最初に入ってきたのは、
「村松がラーメン作ったんだって?」
「食べに来てやったぞ~」
磯貝、片岡、木村、矢田、前原、岡野。トリプルデートでもしてたのか、男子はカッコ良く女子は華やかな、何ともリア充な二班メンバーだった。
「E組割りとかねえの?」
まだ席にも着いていないのに訊いてくる前原。岡野が慌てた表情で前原の脇腹を肘で小突いた。
ラーメンの湯を切りながら、村松がぶっきらぼうに返す。
「リア充共に割引してやるほどウチは楽じゃねーよ。へいお待ち」
三角巾とエプロンを着けた寺坂とイトナに手伝ってもらって、あっと言う間に人数分の丼を用意して、六人の前に置く。
上質な琥珀のような色をしたスープ。さながら美女の金髪のごとくうねる麺。ほんのり薄桃色のチャーシュー。美しい仕上がりに、辺りに広がる芳しい香りに、お客たちの顔にふわあっと笑顔が広がった。
「いただきます」
手を合わせて箸を取り、六人は一口目を啜った。
六人の目が、驚きで一様に見開かれる。
「うまい!」
「おいしーい!!」
各々、感激の声を上げる六人。
「こんな旨えラーメン食ったことねえ!!」
木村がガタッと席を立ち上がる。
「とろける~!!」
矢田のE組一のナイスなバディが突然、一糸纏わぬ状態にまで露わになった気がするが、多分それは目の錯覚だ。
「…!!!」
寺坂組はニヤッと不敵に、互いに笑みを交わしあった。
「これ、お前らだけで作ったのか?」
磯貝が驚いた顔で訊いてくる。
「おうよ、俺たちの苦労の結晶だ」
村松は、誇らしげに答えた。
「たった一晩で…すげえ…」
男子たちは互いに顔を見合わせ、感嘆の息を漏らす。
「…こんな美味しいラーメン、私たちだけで食べるの勿体無いよ。」
岡野が真っ直ぐに顔を上げて、何か決意したみたいに言う。
「他の人たちも呼びましょう」
片岡がバッグからスマホを取り出す。
「律、E組連絡網発動よ。みんなに連絡して」
「了解です片岡さん!!」
小さな画面の中で、色っぽい赤いミニ・チャイナドレスに身を包んだ律が、元気よく敬礼をした。

程なくして、他のE組メンバーが何人も店にやってきた。中には他校の友人を連れてきてくれた人もいた。一番すごかったのは杉野で、所属している市のクラブチームの団員を半分以上引き連れてやってきた。ラーメンを食べた客が他の知り合いに教え、お昼の書き入れ時にはちょっとした行列が出来るほどになった。
「うめえ!!」
「すげえ!!」
「松来軒ってこんな旨い店だったんだな!!」
「あー、でもオレは背脂こってり系の方が好きだな…」
「結構あっさりめだしなー。あと麺はもうちっと太めでコシが強いと良い」
沢山の客が来て、沢山の客が村松のラーメンに高い評価をしていった。中には好みではない、こうした方がもっと良くなると告げていってくれる客もあり、村松は休みなく調理を続ける合間に逐一それをメモに書き留めていった。

このラーメンを、最高傑作としてしまうつもりは毛頭ないのだ。さらに良い、次に繋げるために。親父が築いてきた松来軒を盛り上げ、俺の代で一花咲かせるために。

自分を支えてくれる者たちの示してくれた友情を自覚し、自分に自信をつけた村松の表情には、数時間前に意気消沈してイトナに当たった時の暗い影はもはや微塵も見当たらなかった。

村松は、親友たち…途中で参加してくれた原や竹林も含め…の力を借りつつ、太陽が沈み切って辺りが真っ暗になるまで働き続けた。そして閉店時間三十分前。



「ほぼ完売―!!!」
寸胴の底には精々一杯分のスープが残っているかどうかだ。材料も店にあるものだけでは足りず、途中売上金の一部を使って寺坂と吉田に買出しに行ってもらった。夜も大分遅く、客も殆ど引けた店内や厨房のあちこちで、村松や仲間たちが息も絶え絶えに、しかしどこかしら充実した表情で座り込んでいた。
「ラーメンばっかりじゃもう飽きたかもしれないから、サンドイッチ作ったよ」
原がいつものにっこり笑顔で、大皿に並べた卵やツナやBLTサンドイッチを全員に配る。
「おう、ありがとな」
吉田が嬉しそうに卵サンドを受け取る。村松も疲れ切った表情で、BLTサンドを一つ取る。
「すまねえな」
「…あの親父さんには、どう説明するつもりなんだ?今更だが」
ツナサンドをかじりながら、イトナが村松の隣にやってきた。村松は調理の熱気や人の体温の残る、店内を見回した。この状態では、留守中に店を開いて何かやっていたことなど一目瞭然だ。元より隠すつもりは全くなかったが。
「ありのままやった通り話すさ。今日の俺たちの成果じゃ、恥じることなんて何も無えからな」
「…そうか」
イトナはいつもと変わらない無表情のまま頷き、また一口サンドイッチを齧った。

ガラガラガラ。店の引き戸が開いて、誰かが入ってきた。村松はぼんやりと顔を上げる。
「すいません、閉店時間はまだなんすけど売り切れちまいまして…あ。」
村松は言葉の途中で、その自分と同じようにひょろ長くてキャラメル色の髪をしたオッサンが誰かに気づいた。
「お前っ、親の留守中に一体なにやってんだー!!」
疲労し切った脳みそにガンガン響くような怒鳴り声が、炸裂した。噂をすれば影、松来軒店主にして村松の父親が、店先に仁王立ちしていた。
「松(ま)っさん、どうしたんでえ」
村松氏の肩の向こうからひょいっと、禿げかけて痩せた、温厚そうな顔立ちの壮年の男性が顔を出した。
「田中さん?」
「拓ちゃんじゃねーか、ちょっと見ないうちに大きくなったな。」
田中さんはのんびりと言った。
「あれ、ラーメン?拓ちゃんが作ったの?」
田中さんが訊くのに、村松は先ほどまでの自身はどこへやら、髪を掻きながら「ええ、まぁ…」と気恥ずかしげに答える。
「そういや腹減ったころだよ、一杯貰える?」
田中さんはそう言って、カウンター席の一つに座った。
田中さんは松来軒の数少ない常連客だ。最近は身体の調子がどうとかであまり姿を見なかったが…。また、彼は父親の学生時代からの親友でもあるらしい。
村松は父親、田中さん、仲間たちが見守る中、緊張した面持ちでスープを温め直し、麺を茹で、湯を切って麺とたれとスープを合わせ、本日最後の一杯を完成させる。そして、お客様の前に丁寧に置いた。
「いただきます」
田中さんは仏像みたいに両手をそっと合わせて、箸を取った。それから、ずるずるっと一口啜る。
「旨いなあ」
田中さんはのほほーんと微笑んだ。続けて食べながら、つらつらと思ったことを述べていく。
「松っさんの味を基盤にしつつ、若者向けな、今の時代にあった味にしてあるね。厨房見る限り、苦労して作ったんだなあ。周りに居るお友達も沢山協力してくれたんだね、特にバンダナの子とドレッドの子と大柄な彼。今にも倒れそうな顔してるよ、拓ちゃんもね」
「…」
村松氏は、厨房や周りにいる息子の仲間たちを見回した。そして、恐らく旧友の言う通りであろうことを悟った。
田中さんは暫く美味しそうにラーメンを啜っていたが、やがてとても寂しそうな顔をして箸を置いた。
「…時代は、変わっていくんだねえ。まだまだ荒削りだけど、拓ちゃんデカくなるよ。…でも、俺はもう暫くだけ、松っさんのマズいラーメン食べていたいかな、なんて…」
「田中、あんまり食うと身体に障るんだろ」
村松氏は田中さんから食べ途中の丼を取り上げると、自分で箸を取ってその残りを一口啜って、よく咀嚼した。飲み込んだ後、渋い顔で村松氏は言い放つ。
「…努力は認めてやる。だがな、部外者を身体検査も受けさせないで引き入れて手伝わせて、何か事故でもあったらどうすんだ。食中毒なんか起こした日にゃ、こんな小さい店なんて潰れちまうんだぞ。そうしたらお前に真っ当な教育着けて社会に出すことも出来なくなるんだ。…焦らなくたって、お前が望むならこの店はくれてやる。それまでは余計なこと考えてねえで勉強しやがれ、周りのガキどももだ!」
「…はい」
村松は、素直に頷くより他になかった。父親の顔を恐る恐る見上げると、父は笑っていた。田中さんより、誇らしげに、嬉しそうに、そして寂しげに笑っていた。

結局、俺じゃまだ親父には適わないらしい。そこまで俺の味を愛してくれる常連客は、まだいないし。店を経営するということに対するマナーも出来ていなかった、覚悟も足りなかった。
でも覚悟しろ、いつか俺が店を引き継いだ日には、俺がこの店をデカくして、日本中世界中誰もが知ってるくらい有名にしてやる。

…それまでは、大人しく勉強しよう。



次の日、学校にて。
「おや?」
タコ型生物の教師、殺せんせーは廊下から教室を覗き込んで不思議な顔をする。
村松が、いつも以上に熱心に経営学の本を読みふけっているのだ。その横には、「全国旨いラーメンランキング」みたいな本も積み上げられている。
「…何があったかはわかりませんが、彼の中で一つ意識が変わったようですね」
殺せんせーはうんうんと頷いて、そのままその場を通り過ぎようとする。しかし、村松が呼び止めた。
「殺せんせー」
「?」
殺せんせーが立ち止まると、村松は言った。
「俺には夢がある。俺のダチにも夢がある。地球爆破なんて、させねえからな。絶対にせんせーを殺してやるから、首洗って待ってろよ」
校庭、教室のすぐ外には、村松のかけがえのない仲間たち、寺坂、吉田、狭間、イトナが彼を見守る様にして立っていた。
殺せんせーはにやりと、無表情に限りなく近い笑顔で笑う。
「ええ、村松君。楽しみにしています」

未来を望む少年たちと、未来を壊せる超生物。彼らの織りなす不思議な暗殺教室で、始業のベルは、今日も鳴る。

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