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暗殺教室(渚カエ):MONSTER

魔物パロディ。人の魂を食らう悪魔な渚と、孤独なお嬢様・カエデ。題名は勿論、嵐の楽曲から取りました…が、予想GUYに暗くなってしまった。漫画:チキタ☆GUGUを少し参考。



十二時を少し過ぎる頃。
月明かり、草木眠る頃。

ギィ…と音を立てて、鍵を掛けていた筈の窓が開く。頬を撫でる冷たい風で、カエデは目を覚ます。
何度か瞬きをして、意識をはっきりさせる。次第に暗闇に慣れてきた目が映し出したのは、窓枠に立て膝をついて座る異邦人の姿。風に煽られて、黒いマントがはためいている。彼が背負う、月明かりの逆光のせいで彼の表情は伺いしれない。しかし、カエデは満面の笑みを浮かべてベッドを飛び出し、彼の元へと駆けていった。
「渚!」
渚と呼ばれた少年は、絨毯の上に身軽に飛び降り、走ってきた少女の華奢な身体を受け止めた。
「カエデ、会いたかった」
渚はカエデの背中に腕を回した。カエデの首筋から、ふわりと甘い香りが立ち上った。
彼女の香りは、ここのところどんどん強く、芳しくなってきていた。今がまさに食べ頃、まさに旬。
胃袋から脳髄を支配しようとする凶暴なまでの空腹感を、渚は慌てて抑え込み、にっこり優しいいつもの笑顔を取り繕ってみせる。
カエデも、渚が笑ったのをみて釣られるようにして笑顔になる。
しかし、月明かりに照らされて、はっきり見えた彼の顔を見て、その笑顔は少し曇る。
「渚、また顔色悪いよ。ちゃんとご飯食べてる?」
そのご飯は、彼女自身や彼女と同じ年頃の、若い少女の魂なのだが。
カエデは、そんなことを知る由もなく渚のことを心配する。
渚は苦笑して首を横に振った。
「僕は悪魔だよ?ご飯なんてひと月食べなくたってへっちゃらだよ」
「…」
それでもカエデは、悲しげな顔をする。
参ったな、そんなにひどい顔してるかな。
渚はカエデの化粧台にはめ込まれた、花模様の縁取りがオシャレな鏡を横目でそっと盗み見てみる。そして言葉を失う、これは酷い。
青白い頬、目の下には色濃いクマ。まさに悪魔然としている。こんなにおっかない人相じゃ、新たな獲物を捕まえようにも、逃げられてしまうだろう。
カエデは暫し、腕を組んで考え事をしているみたいだったが、やがてポンと手を打った。
「お昼に作ったチョコレートプリンがあるんだった!それ一緒に食べよう?」
渚はからかい混じりに言う。
「この時間に食べるの?僕は兎も角、カエデ太るよ?」
カエデは頬をリスのようにぷうと膨らませてむくれた。
「し、失礼ね。渚が食べるのに付き合うだけだもん!」
そう言いつつ、ウェディングドレスみたいに真っ白なネグリジェを翻し、部屋を出てパタパタと階段を降りていく。
「冗談だよー!」
渚はその小さな背中に声をかける。
彼は暫く、フフフと楽しそうに笑っていたが、次第にその笑みはすうっとフェードアウトしていった。

こんな僕のことすら心配してくれるカエデの優しさに、暖かな笑顔に、心地いいとすら感じている自分が居る。僕はどうしたって闇の中でしか生きられない生物なのに。人間の女の子なんて、自分に恋させてエネルギーの高まった魂を頂く、悪魔にとっては餌にしか成り得ない筈の存在なのに。

…魅せられては、いけないのに。

考えているうちに、カエデは戻ってきた。カエデは両手にプリンの盛られたグラスを持って、幸せそうに笑っていた。

「嬉しそうなのは僕が居るからかい、プリンが食べれるからかい」
そう訊いてやると、カエデは渚の隣、窓枠に腰掛けながら答える。
「両方!!」

禁断の夜のおやつを食べながら、話は弾む。根っからのプリン好きだと云うだけあって、カエデの作ったチョコレートプリンは悪魔の舌にも美味しかった。悲しいことに、渚を飢えから救い身体を保つ栄養分にはならないのだが。
カエデはさくらんぼみたいに愛らしい唇から、マシンガンのように次から次へと色々な話題を繰り出す。
庭に咲いた美しい赤いバラの話、味見をするのが好きすぎてシチュー鍋を半分空けてしまうばあやの話、そして…めったに会えない両親の話。

「お仕事だから、仕方ないのはわかってるんだけどね」
カエデは少し目を伏せて言う。
「でも、寂しくないよ。渚が毎晩来てくれるから」
カエデはにっこり、満面の笑みを浮かべて渚に微笑みかける。
渚の表情が、悲しそうに少し歪む。
「…僕は、悪魔なんだよ…?」
渚が獲物の少女にその正体を知られるのは、決まって彼女を喰らい殺すその瞬間だった。何故か目の前のこの少女には、何を餌としているのかは明かしていないが、自分の正体についてはとうに教えてしまっていた。それでも彼女は、渚を受け入れた。そして今もそれは、変わらないらしい。

「渚は優しい悪魔だから。大丈夫。」

拒絶や絶望の代わりに寄せられたのは、絶対的な信頼と微笑みだった。

人間が日々パンを食らうのと同じ、そこには腹が満たされる満足感はあるものの、何の感慨も感傷も湧かない、当たり前の行為だった筈だ。

仕方ないじゃないか、どうしたって腹は減るんだ。ヒトも、悪魔も。

ヒトを獲物とするように作られた自身の存在を、罪に思う必要は、ない。

「でも、もし渚が怖い悪魔でも」
カエデがまた口を開いた。
「渚にだったら、殺されても食べられても構わないかな、なんて」
カエデはそう、はにかむように言って、笑う、また微笑う。
それから真っ赤になって顔の前で手をぶんぶんと振る。
「ご、ごめん、今の無…し…?」
恥ずかしがってまくしたてるカエデの言葉は、途中で渚に遮られてしまった。渚が腕をカエデの背中に不意に回し、カエデの顔を強く胸に押し付けたのだ。

「渚…苦しいって…」

カエデが小さく呟く。そんな声でさえも愛しくて、渚はカエデが苦しがるのにも構わず、彼女を抱きしめる腕に力を込める。

「ごめん、ごめんね」

カエデの自分より一回り小さな身体は、柔らかくて温かだった。そして、今が旬と声高に叫ぶように、甘美な香りを纏っていた。
簡単なことだ、そのまま鋭い爪で首筋を切り裂き、血に染まった身体から離れようと足掻く青白い魂を、捕まえて喰らえばいい。

…でも、もう少し彼女と一緒に居たい。

窓から覗く地平線、森の向こうが淡い金色に染まり始め、小鳥が新しい日の始まりを告げる頃が、二人の別れる時間だった。
何時の間にか渚の腕の中で眠ってしまったカエデを、屠ることも傷つけることもせず、羽の詰まったベッドに寝かせ、窓枠に足を掛ける。そして、意を決して飛び降りる。夜露に濡れた草の繁る地面では、怪我をすることはないが、それなりの衝撃を渚の脚に伝えた。

もう、悪魔らしく空を飛ぶことすら僕には出来ないんだ。

闇の生き物にとっては、命取りに成り得る太陽が昇り切るのを恐れながら、渚はよろよろと歩く。

薄紅色を帯びたたなびく雲は、見たこともないほど綺麗で、残酷だった。

僕はそれでも…それでも彼女を喰らうだろう。近い内に。明日こそ、いや今夜こそ。僕が僕であるために。しかし。

渚は思う。

その瞬間、彼女だけは、カエデだけは、今まで殺してきた娘たちの誰よりも、優しく殺してあげられたらいいのに。

そう、願うのだ。

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