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暗殺教室(狭間):椅子取りゲーム

イトナに居場所を取られて疎外感を感じる狭間さんのお話。狭間さんは、寺坂グループを陰から支配するお姐さんキャラだと私は思っているので、何があっても割とドーンと構えていそうですが、たまにはこんな狭間さんも良いかなと。
途中、シモ注意。


最近、ウチの班の男共は、とても楽しそうだ。
狭間綺羅々は思う。
それというのも…
「おーいイトナ、頼まれてた部品もってきたぞ!」
吉田が、ネジと思しき金属の部品が入ったビニール袋を、綺羅々に当たりそうなくらい大きく振りながら走ってきた。
「イトナ、昨日の数学の宿題ちっと見せてくれや」
寺坂が、綺羅々にぶつかりそうだったことにも気付かずにスクールバッグを乱暴に机に置いた。
「何ィ、断る?!おめー誰が命救ってやったと思ってんだ」
「イトナ、親父がメンマ大量に余ったって!食うだろ?」
村松が、狭い机の間をすり抜ける時に綺羅々の机の上、しかも開いて読んでいたノートのど真ん中に手を着いた。
「…贅沢言うなよ、大体お前、ちゃんと野菜食えっての」

暫く横目で見ていたら、何時しか話題の中心は、イトナが殺せんせーから借りたというエロ写真集に移っていた。
「うっひょー、すんげぇ巨乳」
イトナの机の周りに集まって、揃いも揃ってデカい図体の背中を丸め、男共は食い入るように雑誌を覗き込んでいる。
「やっぱDカップは欲しいよな最低」
吉田がでれでれと言った。
「このビキニの食い込み具合がなかなか」
村松もキシシとニヤつきながら言う。
「君たちお子様だね、乳というものは美しくもなければ。ふくよかな白い膨らみの頂点に控えめに君臨する珊瑚色の乳首。…この娘はダメだね」
なんか増えてるし。
竹林が、眼鏡をくいっと指で押し上げながら会話に割り込んできた。
「全く、朝っぱらからビキニだ乳首だって…」
男共の会話を聞き咎めた片岡が心底から嫌そうに呟いた。
「狭間さん、こんな近くでよく耐えられるわね」
別に私は気にならない。男ってのはそういうものだ。でも。
綺羅々は思う。
私が一緒にいる時は、ここまで過激な猥談に花を咲かせたりはしなかった。こいつらなりに私に遠慮でもしていたのだろうか。

一日の授業が全部終わって、帰る時間。
「おうおめーら、村松んちでラーメン食ってくぞ」
寺坂が言った。
「まーたタダ飯食ってくのかよっ!!」
村松が目をひん剥いて怒鳴る。
これはいつも繰り返されるお約束の会話だ。それに伴い吉田とイトナもカバンを肩に掛けて立ち上がった。
「たまには博多ラーメンとか食いてーよ」
「バカ野郎、材料ねーのに作れるかよ」
村松が吉田のリクエストを素気なく突っぱねる。そして四人は、談笑しながら教室の出口近くまで歩いていった。
「あ。」
途中で寺坂が何かに気づいたように立ち止まった。それから振り返る、
「狭間、おめーも来るだろ?」

…忘れてたな?

そう思うとムショーに腹が立って、綺羅々はわざとらしいくらいにそっぽを向いた。
「私食欲無いから。そんなどっかの超能力ギャグ漫画みたいに毎日ラーメン食べてたらブタになるっての」
それから、綺羅々は再び椅子に腰を下ろして机の中から取りだした文庫本を開いた。教科書ノート全部カバンに詰めて帰り支度をしていたのは、誰の目にも明らかだったのに。

「…どうしたんだよ狭間の奴」
寺坂が怪訝そうに首をひねる。
「そりゃ毎日不味いラーメン食わされたら胃もたれもすんだろ?女の子だしな」
吉田が訳知り顔に頷いた。
「不味い不味い言いながら何で毎日来るんだよっ」
村松が額に青筋を浮かべて中指を立てながら怒る。
「…」
一連のやり取りを見ていたイトナは、何も言わなかった。寺坂たちが教室から出ていってもその場に留まって、子猫みたいに透明で大きな目を綺羅々に向け、暫く彼女をじぃっと見つめていた。
何かを言おうと逡巡しているようだったが、綺羅々はそれを無視した。やがて、
「イトナ何してんだよ、置いてっちまうぞ!」
寺坂に呼ばれて、彼もまた綺羅々に背を向けて、教室を後にした。

綺羅々は、教室から誰も居なくなっても文庫本と睨めっこを続けていた。しかし、全然内容は頭に入ってこない。

あー、もう!

綺羅々は文庫本を乱暴に閉じて、机の上に突っ伏した。
冷たく堅い木の表面に額をくっつけて、思い出すのは少し昔のこと。

綺羅々は一年生の時も、今とおんなじ、カワイクない女生徒だった。

「狭間さんて、ちょっと怖い…」
クラスメートたちはそう言って、綺羅々を遠巻きにした。まずは綺羅々の、魔女然とした容姿にビビり、何とか勇気を出して声を掛けた者は綺羅々のキッツイ物言いにたじろいで、二度と再び声を掛けてくることは無かった。この年頃の子たちは特に、自分と違う雰囲気を纏った存在に厳しいものである。綺羅々はいつも独りきりだった。別にそれでも構わなかった。一人でいるのには慣れていたし、それが心地よかったから。
しかし、ある時。席替えで、同じくクラスの嫌われ者、寺坂竜馬と隣になった。ヤツは行儀の悪いことに、机の上に汚れきった上履きの足をでんと乗せて、濁った目でぼーっと宙を見ていた。寺坂が綺羅々に初めて放った第一声は、コレだ。

「数学。めんど臭えから、宿題見せてくれや」

自分にそんな無遠慮な態度でモノを言ってくる奴は初めてだった。
「…はあ?あんたに見せてやる義理とか無いし」
内心びっくりしながら、いつものように毒を込めて言葉を吐く。寺坂は、恐れる様子もなく、ただふー、と息をついた。
「カタいこと言うなよ」
そうして勝手に、綺羅々の机の上に置いてあったノートを奪い取ってざかざかと自分のノートに書き写すと、それをポイと投げて返した。
何て野蛮で失礼で図々しい人間なんだろう。
綺羅々は思った。
でも同時に、興味深いとも思った。
暫く注意して見ていたら、こんなに無礼でみんなに嫌われている寺坂にも、二人の友人がいることが解った。それが村松拓哉と吉田大成だ。一見腰巾着のように見えるが、れっきとした対等な、仲の良い友達グループだった。揃いも揃って嫌われ者で、三人でつるんで教師に反抗したりささやかな悪いことをしたりしていた。綺羅々は何となく、彼らに付いて歩くようになった。寺坂たちの方も、そんな綺羅々を排除しようとしたり無碍に扱ったりはしなかった。それが独りでいるより居心地よくなって、気が付いたら四人でつるむのが通例になっていた。

…あの子(イトナ)は、良く知らないけど中々可哀想な来歴らしい。そんなあの子にやっと居場所が出来たんだ、それを疎むべきではない。

誰かに言い訳するみたいに、綺羅々は頭の中で自分に言い聞かせようとする。

それに…自分はもともと一人でいるのが好きだったし。あいつらだって、男同士で遠慮や気遣いなんてしないで、大好きなスケベ話なんか思う存分にしたいだろうし。それであいつらと関係が切れたって、ただ元通りになっただけだ。
あるべきものが、あるべき場所に。

…しかし、考えても考えても、心の奥底に隠れている本当の綺羅々は、どうしても納得してはくれなかった。彼女が首を横に振って訴え続けていることは、

私にとっても居場所なのに…

「あら、狭間さんまだ帰ってなかったんだ」
ガララ、と音がして、木製の引き戸が開かれた。顔を上げると深刻な女子不足に悩まされている三班の、もう一人の女子、原が教室に入ってくるところだった。
「…どうしたの?大丈夫?」
すぐに再び顔を伏せてしまった綺羅々を気遣って、原が訊いてくる。
「何でもない。ほっといて」
鼻と口を腕に押し付けた状態で、綺羅々はモゴモゴ喋る。
「そう…」
原は納得していない様子ではあったが、綺羅々の言うとおりにすることに決めたらしい。教室に戻ってきた目的の、英語の問題集を机から取り出して、カバンに入れる。それをこっそり眺めている内に、気が変わった。

「私さ」
綺羅々は誰も居ない前をぼうっと見つめながら、半ば独り言のように呟く。
「男に産まれりゃよかったよ」
「…」
原は手を止めて、わかってる、といった表情で綺羅々を見下ろした。

重ったるい、赤い夕陽が教室を染めている。遠く幽かに、電車の音が響いてきた。


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