スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

暗殺教室(イト狭):アラクネはそれでも足掻く

十月も終わりかあ…。
久し振りですイト狭です!
珍しく狭間さん→イトナ君。鵜守にしちゃ割と甘め。
どスランプ中の文章リハビリ、下手くそはご勘弁。神話の下りはあくまでも『一説によれば』、です。
Not simple(オノナツメ著)の一場面を少し参考。


曇り一つない銀色に磨き上げたはんだごての先を寝かせて、基板の銅色の部分に当てて温める。数秒したら、針金みたいなはんだの先端をそこにつけて、溶かす。頭の奥をツーンと刺激するような、フラックスのニオイが煙と共に立ち込めた。
 流石に手際の良い、イトナの手の中で着々と工作物が形作られていく。どうやら今回の作品も戦車の形らしい。
 綺羅々はいつしか文庫本のページを捲る手を止めて、イトナが作業する様子にじっと見入っていた。
「…あまり見られていると気が散る」
 背中で視線を感じ取ったのか、イトナはドライバーでネジを締めながらも僅かに困惑したように呟いた。
「悪かったわね」
 綺羅々はそう言いつつも、イトナの手元から視線を離さなかった。
「もしかして、興味あるのか?電子工作」
 イトナが一瞬だけ手を止めて、後ろを振り返って訊いた。綺羅々はスパッと切り捨てる、
「全く興味無い。」
 他でもない、イトナが何かを作っているから、目を奪われるだけだ。
 まあ、そんな歯の浮いた台詞、口が裂けても言わないけれど。
 イトナはそんな綺羅々の素っ気も愛想もない言い方にも構わず、「それは残念だな」と返しただけで黙々と作業を続ける。
 その怜悧な横顔は、自分の集中を乱す余計なものを一切受け付けないといった厳しさを纏っていた。それが少しだけ面白くなくて、綺羅々はまたその屈めた背中に声をかけた。
「そんな訳わからないチップとか金属とか切ったり貼ったりして、何が楽しいの?」
「興味無いんじゃなかったのか?」
 イトナは綺羅々の、失礼とも思える質問に対しても気にする様子は見せなかった。しかし、ドライバーと組み立て途中の作品を机に置いて、顔を上げた。
「楽しいぞ?だって、店なんかには売ってない、今までこの世のどこにもなかったモノが出来るんだから。他でもない自分の手で新しいモノを生み出せる、こんな面白いことが他にあるだろうか」
 いつもと同じ、機械じみて淡々とした口調に、珍しい程の情熱を込めて語る。イトナの子猫のように大きな瞳は、普段にも増してキラキラ輝いていた。表情はいつもと変わらない鉄壁の無表情だが。それで綺羅々は、コイツは本当に電子工作が好きなんだなと思い知る。
綺羅々はふと思い立って、イトナに訊ねてみる。
「やっぱりあんたはさ、将来親の工場立て直すのが目的なの?」
 綺羅々の問いに、イトナの表情が少し陰った。未だにどこで何をしているのか、生きているのか死んでいるのかすら判らない両親のことを思い出したのだろう。少し間を置いて、イトナは答えた。
「小さい時から、『お前はこの工場を、世界を影から背負って立つ身』と言われていた。だから、絶対に俺は、工場を復興させなければならない。まずは暗殺を成功させて資金を手に入れることからだが」
 話している内に、瞳に光が戻ってきた。それは、イトナの行く末を照らすたった一つの光であり、かつて触手を植え付けられていた彼が取り付かれていた、狂気じみた執念をほんの少し思い起こさせるものだった。
「…ふーん」
 綺羅々は同意も否定もしなかった。
 自分を捨てた親の言葉を、それでもそこまで信じられるなんてね。
 コドモみたい、と呆れる一方で、よっぽど愛されてきたんだなぁ、と少し羨ましくなる。
自分は、最早両親のことを冷めた目でしか見られないから。
「狭間は?将来何になりたいかとか、あるのか?」
 今度はイトナが綺羅々に訊く番だった。綺羅々は少し前にした進路相談で殺せんせーに伝えたことと同じことを言う。
「私はこの通り、活字が好きだから。なるべくデカい図書館の司書になりたい」
未来を語る、綺羅々の口元が綻んでいた。あまり見ない表情にイトナはあれ?と違和感を感じるが、その正体が解らなかったのでそのまま話を続けた。
「理解できないな、小説の面白さとか」
「意外に面白いかもしれないわよ。小説だったら別の世界に連れて行ってくれるし、雑学本なら知識も増えるし」
 これまた珍しく、楽しそうに語る綺羅々に対してイトナは何ともロマンの無い返答をした。
「俺は小説が読めない。眠くなる、専門書かグラビアでも眺めていた方がずっとマシだ」
「あっそ。…まあ、事実は小説より奇なりって云うし、あんたの半生の方がよっぽど波乱万丈で刺激的っぽいしねー」
 そう言って綺羅々はクククと笑う。
「笑い事じゃない…」
 イトナは眉根にわずかに皺を寄せる。しかし、意外に腹は立たなかった。人に裏切られ続けたここ数年間。まだ傷の塞がり切っていない苦しい記憶を茶化されて笑われるなんて、許せないことの筈なのに。
 まあ、女相手に腹を立てても仕方ないから、と軽くため息をついてドライバーを握り直すと、綺羅々がまた話し掛けてきた。
「織物名人アラクネと、アテナの話を知ってる?」
「…ギリシャ神話、だったか」
 必要なサイズのネジを小箱から取り出しながら、イトナは返事をした。
 綺羅々は頷いた、
「そう。…神にも負けない腕だと豪語したアラクネが、女神アテナと機織り勝負をすることになったの。勝負自体は互角だったんだけれどね。アラクネが作ったタペストリーの題材がアテナの父親ゼウスを貶めるモノだったから、アテナは怒ってタペストリーを破壊した上でアラクネを自死に追いやってしまうの。それでも飽きたらず、アテナはトリカブトの汁を撒いて、アラクネを醜い蜘蛛の姿に転生させて、死ぬことすら許さなかったというの。…酷いと思わない?」
「俺はただ『ふーん』としか…作り話だし」
 綺羅々が何故、唐突にそんな話を始めたのか意図が掴めず、イトナは困惑しながら聞いていた。作業はまたしても中断させられてしまった。
綺羅々は構わず、話を続けた。
「でも、今や蜘蛛は色々な形態や生き方をそれぞれ進化させて、世界中に広がって生息している。例えばこのアシュラ。」
 綺羅々はスクールバッグから、毒々しい色合いの巨大なタランチュラを徐に取り出した。時々、バッグに忍ばせて学校に連れて来るのである。
「タランチュラは、バナナとかに仔蜘蛛や卵の状態でくっついて、世界中に広がったんだって。アシュラみたいに色が綺麗な種類は人に飼われることで自分の子孫を残すし」
「それ、俺の頭の上に置いたりするなよ?」
 イトナは無表情からほんの少し、しかしあからさまに嫌そうな顔色を浮かべて作業に支障のない程度に綺羅々から距離をとる。
 綺羅々はクククと可笑しそうに笑ってから、また話し始めた。
「そう、そんな風に大抵の人に嫌われて疎まれても、こいつらは糸を紡ぐ。生きるために殖えるために。ちょっとだけ、あんたに似ていると思うけどね。」
「…」
 それを言いたくて神話云々言い出したのか。
 イトナはようやく綺羅々の話の意図を掴むことが出来た。
 しかし、嫌われても疎まれてもって。人気者とは思わないが、そんな嫌われ者であるとも思えない。少なくとも、E組に居る今現在は。
「…蜘蛛に似ていると言われたのは初めてだな」
 どう返答して良いものか考えあぐねた末に、そんなつまらない言葉が捻り出されてきた。
 綺羅々は空中で苦しそうに沢山の脚を蠢かせているアシュラをスクールバッグの中にしまい、イトナの机の前、イトナの真っ正面に回る。そして座ったままのイトナを見下ろし、凛とした声で言い放った。
「あんたを、物語にしようと思う」
「…は?」
 またしても、あまりに突飛な綺羅々の提案に、ポカンとしてイトナは彼女を見上げた。綺羅々は、いつもの寺坂達とろくでもないことを企んでいる時の笑顔で説明する。
「あんたの人生を見ているのは面白そうだからさ。一度全てを奪われたあんたが、手先の器用さだけを唯一の武器に世界に挑んでいくの。世界に勝てたら、物語はハッピーエンド。負けたら、勿論バッドエンドよ。…私個人としては悲劇の方が好きなんだけど」
「人の人生をネタにするな」
 愉しそうな綺羅々に対して、苦い顔でイトナはドライバーを三度拾い上げる。
 全くこの女は、何でそう酷いことを易々と口にするのか。
「まー、私自身にも目標があるし、そればっかり関わっている訳にもいかないので?精々私が飽きないような人生送って頂戴よ」
 そう言って、綺羅々は笑う。
イトナは呆れた、という表情でため息をつく。しかし、どうしてだろう?イトナは違和感の正体に、不意に気が付いた。
ああ、理解した。俺は狭間の笑顔が、好きなのだ。
イトナは顔を上げ、綺羅々と真っ直ぐ視線を合わせる。
「お前のエンターテイメントを演じる気はさらさら無いが、そう言うなら高い所からそうして見ているが良い。親父が興して潰した企業を、世界に名だたる企業にしてやる。一度、この堀部電子製作所を要らないと切り捨てた世界が、喉から手が出るくらいに欲しがる技術を俺が開発してやる。」
「やってみなよ。あんたの復讐劇、楽しませてもらうわ」
イトナは口元にやや挑戦的に笑みを浮かべる。綺羅々も、笑みを返してやる。

願わくば、物語(サーガ)の終わりは笑いで締め括られるように。ついでに、女神面して高みの見物決め込んでいるコイツを、地上に引き摺り下ろせるくらいの高みに届くように。

「…ところで、書いた物語はどうするつもりだ?」
「私のポケットマネーよ?他にどうするというの」
「そりゃそうか」

over
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。