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暗殺教室(イト寺):寺坂、頭をよくしてあげよう

腐向け、楽曲パロ。ギリッギリブログにも載せられるくらいにはお上品。一応付き合っている設定。需要はありそうなのに供給が全くないのが不思議なイト寺。自分はぼおいずらぶド下手なんだけど、これを読んだ腕に覚えのあるどなた様が「こんな下手っぴに任せてはおけーん!」と発奮して下されば…とかなんとか。


デートみたいなものと言いつつ、互いに金も無いし受験生と云うこともあって、二人で会う時は大抵、図書館やら公園やらの街中津々浦々で教科書と睨めっこすることになっていた。今日は寺坂の家族がたまたま留守だと言うので、奴の家に上がり込んで、買ってきた菓子パンやら炭酸飲料やらをお供に数学のドリルを解いていた。早々に課題を終えてしまった俺は、専ら寺坂が解らないところを教えることに専念していた。
「この問題は、こっちの数式を使って…」
「こうか」
「違う、最後まで話を聞け。…何で解らないんだ、寺坂のバカ」
あんまり理解して貰えないのに苛立って、つい罵倒が口からついて出る。寺坂はいつもの通り、眉根に皺を寄せて抗議した。
「お前なァ、人のことあんまりバカバカ言うなって言ってんだろ?大体お前の教え方が悪いから。」
「人の所為にするな。…前の、難易度の低い問題に戻るぞ」
俺はドリルのページを少し前まで戻し、基本的な公式などをもう一度丁寧に教え直してやる。
その甲斐があってか、時々コーラで喉を潤しながら、時々髪をかきむしってあーとかうーとか呻きながら、寺坂は何とか解き仰せた。
「正解だ、やれば出来るじゃないか」
からかい半分に拍手などして誉めてやれば、寺坂はフンと鼻を鳴らした。

「お前、よくこんな小難しいの解るよな」
課題が一段落着いて、休憩をとる。如何にも間抜けそうな表情でジャムパンをもふもふとかじりながら、寺坂は言った。
「パズルみたいなものだろ?この程度解らないの、E組ではもうお前くらいのものだぞ」
俺はラジコンのヘリコプターのねじをドライバーで締めながら顔も上げずに返した。顔を上げなくとも、「また言う…」と呟く寺坂が拳を握り締めてぐぬぬと顔をしかめているのは手に取るように解る。そしてその拳が、改造人間としての力を既にもう殆ど失って久しい俺に向けられる可能性はほぼ無いだろうということも。
「…数学とか科学とかは、絶対的なものだからな」
手を止めて、俺は呟く。顔を上げて寺坂の顔を見ると、寺坂は案の定はてな?という表情をしていた。俺は続けた、
「変わったり壊れたりしない。答えが決まっている。…ヒトと、違って」
親父もお袋も、友達だと思っていた奴も、みんな俺の元から去っていった。それについて俺は責める権利を持たない。責める気もない。人間ってのは、そういうものだ。
…だが、本当にそう、諦めきっているなら、どうして今、それをコイツに言う気になったのだろう?
遠回しにヒトを、自分を否定する言葉を俺に投げつけられた寺坂は、困ったような顔をしていた。
「…変わらないもんだって、あると思うが…」
寺坂は、コイツらしからぬ小さな声でぼそりと呟いた。
「…本当にお前は、バカだな。犬以下」
俺はため息をついて言う。
「だぁらっ、バカって言うなっ!!犬以下ってなんだ!!」
寺坂は怒って拳を振り上げた。俺ははいはいと幼児をあやすかのようにそれをかわした。
寺坂が、そう言うのは解りきっていたことだった。
コイツはバカだけど、本当に優しい。本当にコイツなら、例え地球が終わっても俺から去らないでいてくれるかもしれない。…そう、信じたくなってしまう。
「絶対的なものが欲しいなら、俺がやるし」
寺坂は、当たり前、と言った調子であっけらかーんと言った。
俺は椅子から立ち上がって、寺坂の目の前に立つ。
「…何だよ」
寺坂は怪訝そうに訊く。
「寺坂、キスしようか」
俺は座ったままの寺坂を見下ろして淡々と言う。
「はあ?何を唐突に…」
答えを待たず、余計な発言を許さず、俺は身を屈めて寺坂の唇を性急に奪う。
角度を変え、何度でも重ね、徐々に深くなっていく口づけ。速度を増す寺坂の鼓動と、水音だけが俺の聴覚を満たしていく。
時間も、酸欠も気にならない。ただただ、コイツの体温を感じていられればそれで。
一分もやっていたら苦しくなったのか、寺坂は俺の肩を掴んで引き剥がそうとする。俺は仕方なく離れてやった。濡れて光る糸だけが、未練がましく二人の間を繋いでいる。
「何だってんだ、一体…」
寺坂は口元の唾液を手の甲でぬぐい去る。それで糸は、呆気なく切れて下に落ちた。
もう少しくらい、名残惜しそうにしてくれても良いのに。
俺はつい、今より多くを望んでしまいそうになる。
寺坂は俺より随分背も高い、体格も良い。寺坂が座っていてくれるから、俺が優位にも立てると言うのに。
「あ、勉強ばっかやってて飽きたとか。『休む』か?」
寺坂が後ろの寝台に走らせた視線で、その言葉に隠された意味を知る。まあ、そうしたいのは山々なんだが。
「早い内には帰ってくるんだろ、親」
代わりと言う訳でもないが、俺は寺坂の首に腕を回して抱き締めた。寺坂の耳元で、俺は囁く。
「寺坂、頭を良くしてやる」
「はぁ?」
寺坂はまた、言った。
「おめー、失礼って言葉知ってるか?」
寺坂の顔は見えないが、声の調子から多分、顔を怒りのあまりひくひくと引き攣らせているに違いない。寺坂は、俺の腕をそれでも振り払うことはしない。それを良いことに俺は続けた、
「数学と英語なら人に教えられるくらいには自信がある。その他も…まあ、お前よりは出来ると思う。だから、一緒に居る内に教えてやる。どんなにお前がバカでも、我慢して教えてやる」
「バカバカうっせーっての…」
もう反論するのも面倒くさい、といった調子で寺坂はため息を吐いた。

優しい寺坂、俺の命を救ってくれた寺坂、俺がどんなにかお前のことが好きか、お前は解らないだろう。
でもきっといつか、恋にも終わりが来るものだ。その時、お前に少しでも俺がひととき、一緒に過ごした証が残るように。また一人になっても、俺が生きていけるように。

窓の外では、晩秋の色濃い黄昏が、街を染め始めていた。

over

暗殺教室(寺坂グループ):中三男子は腹が減る!

愛すべきアフォ男子共の繰り広げる、青春バカ話。



「昼前のオヤツにピザ頼んで食おーぜ」
一時間目が終わった休み時間、いつもの五人で集まって駄弁っていた時、寺坂が言った。
「…いきなり何を言い出すかと思えば…」
「放課後に毎日タダラーメン食っててもまだ足りねえのかよ…」
「ただでさえ無駄にデカいのに、横にまで広がったら一体どうなるのか…」
「このっ、ピザ野郎!」
仲間たちから口々に呆れ果てたというような反応が返ってくる。
「誰がピザ野郎だ!…何だよ面白いと思ったのに。あのタコの目を盗んでどれだけのことがやれるか、暗殺訓練にもなると思うぜ?」
寺坂が諦めきれないように言う。
暗殺訓練、はこのクラスにおいては魔法のワードだ。その言葉をきっかけに仲間たちの目が明らかに変化した。
「そうだな…殺せんせーの弱点や気づかれにくい部分の再確認にもなるか…」
「原じゃねーけど、毎日あんなハードな訓練してると腹減るんだよなー、確かに」
「ピ○ーラのハワイアンクオーターなら頼んでも良い」
寺坂に呆れた反応を返しながら、実のところは恐らく、教師の目を盗んで些細な悪戯をする、という計画が彼らの厨二心をくすぐったのだろう。基本的に小規模な悪事をするのが大好きな奴らである。しかも成功すれば小腹を満たせる美味しいご褒美まで手に入るのだ。
「くっだらない、私パスね」
狭間が野郎どもに背を向けて、分厚い文庫本を開いて読みだした。
「なんでぇ付き合いの悪い」
寺坂が言うのに対して、村松がやや庇うように言った。
「小食だからな。」
「で、どうすんだよ。今から電話する?ていうか、学校に届けてくれっつって来るもんなの?」
吉田が訊いた。
「どちらにしろ今日はやめた方がいい。まずは計画を立ててからにしよう」
イトナが冷静に言った。
「だな」
四人の意見はそれで纏まった。

「じゃあまず、決行時間だ。暗殺訓練にならないと意味がねえし、オヤツにちょうどいい三時間め前の休み時間に食えるように、二時間目の途中の十時に届けてもらう、で良いか?」
寺坂が言う。
「ちょい待ち、明日の二時間目、訓練じゃねえよな」
吉田がスマホを取り出して授業予定表を確認する。
「…数学。おあつらえ向きだ。」
「よし」
寺坂が満足げに頷いた。
「で、届けてもらう場所は、どこにするべ」
「この山道…バイクで登んのはしんどいだろ…」
村松が窓の外を見やる。
「無理だな、山道っつーか獣道だもん」
「山の入口はどうだ?」
イトナが提案する。
「本校舎の校門前ということになるが」
「そりゃマズいだろーがよ」
村松が言った。
「だってあの理事長が随時見張ってんだぜ?モニターで。あのオッサン他にやることねえのかよ」
「反対側の入口は?確か、山の周りぐるーっと回ってくと駄菓子屋があったはず」
吉田がポンと手を打った。学校周りの地理にはまだ疎いイトナ以外の三人は、おお~、と頷いた。寺坂が言う、
「っしゃ。じゃあ、それを目印にして…」
しかし全部は言わず、途中で言葉を切って考え込んだ。
「あの山道一キロを往復…一体何分掛かるんだ」
他の三人も、うーんと唸って首をひねる。
「上り下りだしなあ。ただ行って来いするだけでも八分ちょいってとこか…」
「『ウ○コ』で通すにはちと長いな…」
「あのタコ、絶対トイレまで様子見にいくぜ」
「それを何とか食い止めるのが実行犯以外の仕事だろ」
「そうは言ってもよ…あ」
村松が、何かを思いついてイトナに訊いた。
「おい元改造人間、お前昨日の100メートルの結果どのくらいだっつってたっけ?」
イトナはちょっと顔を顰めたが、答えた。
「その呼び方止めろ。…確か、9秒18だった」
「…すっげ」
「ウサイン・ボルトより速えじゃん」
フツーの人間ではほぼ有り得ない記録に、感嘆する面々。しかしイトナは首を横に振る。
「…でも日に日に遅くなっている。何とかある程度のところで食い止めようと訓練しているんだが…」
「…充分じゃね?」
「とにかく今はそのくらいで走れるってことが重要だ。100メートル9秒ってことは単純計算で180秒。山道だってこと、疲労、ピザ受け取るのに必要な時間、そんなものを加味しても…五分は掛からないな」
吉田が計算しながら言った。村松が笑う。
「ションベンでも通用するな」
「おめー、何リットル出してんだよ。…まあそれは置いておいて、それじゃ実行犯はイトナで良いな?」
「さんせーい」
全員が賛同し、話が纏まったかに見えた。しかし、今度は実行役にされてしまったイトナが疑問点を上げる。
「でも十時きっかりにピザ屋が到着するとも思えないが。来てから俺が行くことになると思うが、来たかどうかはだれがどうやって調べるんだ?」
「おいおいおい、他でもないお前さんがそれ訊くのかよ」
イトナの問いに対して、吉田が大仰に呆れたという表情をする。
「何のために毎日ちまちまコツコツ、糸成号を組み立ててんだよ」
「…まさか」
寺坂がその『まさか』を答えた。
「お前が授業中にこっそり偵察ヘリ操作して、調べればいいじゃねーかよ。」
イトナは三人をちょっと睨むようにして見る。
「…最近お前ら、俺に頼り過ぎじゃないか?」
「命救ってやっただろー?細けーことは気にすんな!」
寺坂がイトナの背中を叩いた。
「…いざとなった時に全責任俺に押し付けて逃げるなんて真似したら、タコの忠告なんて関係ない、元改造人間の力駆使して殴り飛ばすからな」
そして、いくつかの不安要素は残しつつも、今度こそ計画は成立したのだった。

次の日、一時間目の休み時間。殺せんせーが次の授業の準備をしに教室を出ていったのを見計らって、寺坂組男子たちは集まった。
「意外と遠かったぞ、駄菓子屋」
イトナが言って、他の三人に画像が見えるようにコントローラを操作して見せた。液晶には、駄菓子屋とその周辺の民家が数軒、上空から見下ろしたような景色が映っていた。
「相変わらずすげえな」
村松が言う。
「後でどう作ったのか教えてくんねえ?」
吉田も訊いてくる。イトナは、いつも見開いた無表情の瞳にほんの少しだけ得意げな色を覗かせた。
「よし。じゃあ、注文すっか。今から電話すりゃ、十時には届くよな。」
寺坂が言う。吉田がスマホを取り出して、ピザ屋に掛ける。
「あ、もしもし、ピザの宅配頼んまーす。時間は十時、場所は椚が丘中学校裏手の『夕日屋』前で…種類?えーと、ハワイアンクオーターだっけ?はい、はーい、よろしく」
吉田が通話を切る。そして、驚いたように呟いた。
「ホントに注文受けたよ…」
「向こうも商売だしな。松来軒(ウチ)はやらねーと思うけど」
「後は取りに行くだけだな。イトナ、頼んだぜ」
肩を叩いてくる寺坂に、少々複雑な表情を浮かべながらもイトナはこくりと頷いた。

始業のチャイムが鳴る。引き戸が開いて、殺せんせーが戻ってきた。

四人の、史上最高にろくでもなくてわくわくする戦いが始まった。

「微分というものは実は日常生活にありふれていまして、例えば皆さんの身長や体重など変化するものの単位時間当たりの変化率など…」
殺せんせーが黒板にチョークで数式などを書くために生徒たちに背を向けるその時々を見計らって、イトナは身をかがめて机の下でリモコンを操作して映像を見る。
九時五十分。夕日屋の周りにはまだ、人影はない。
前の席で吉田と村松が何かを渡し合いながらごにょごにょ喋っている。村松が振り向いて、寺坂に小さなスプレー缶と思しきものを手渡した。
あんな目立つことして、バレたらどうするんだ。
イトナが思っていたら、今度は寺坂が、右からそのスプレー缶と、小さなメモ書きを渡してきた。
『消臭剤。ピザにかけろ』
ああ、とイトナは合点した。
殺せんせーは鼻が利く。匂いでバレるのを防ぐためだろう。
でも、こんなものをたとえ外箱からでもたっぷりかけたピザを食うのは嫌だな、とぼんやりリモコンを覗いていたら、教壇からチョークが飛んできた。…寺坂に。
「こら寺坂君、授業はまじめに訊いて下さい!」
大柄な身体を硬直させて冷や汗を垂らす寺坂に対し、イトナは安堵の息を吐く。
良かった、ばれてない。
その時。リモコンの液晶から見える景色に変化があった。画面の端から赤と白で彩られたバイクがすーっと走ってきて、駄菓子屋の前で停まった。ピザ屋だ。
イトナは偵察ヘリを急いで山道の入口の木の陰に着地させ、リモコンを机の奥深くに滑り込ませて大仰に身を屈めた。
「ど、どうしましたイトナ君!」
直ぐに気付いた殺せんせーが、マッハ20でイトナの席にやってきた。
「腹が痛い」
イトナは呟いた。

「そう言やぁ、あのタコはトイレに行かせてくれるだろうよ」
それが寺坂の策だった。イトナも同じように思ったから、その通りに言ったのだ、が。

「なんですって、それは大変!!触手細胞の副作用かもしれない、すぐ医務室へ行きましょう!!皆さんちょっと自習しててください!」
なんと殺せんせーは、文字通り顔色を真っ青にして過剰なくらい心配しだした。しかも触手でイトナの手を取って甲斐甲斐しく席から立たせようなどとするもんだから、三人は慌てふためいた。
「あっ!あー…イトナ、おめー、松来軒の賞味期限切れチャーシューあんなに食うから。殺せんせー、食あたりだと思うから、ほっとけよ」
寺坂がちょっと哀れになるくらいに冷や汗たらたらでたどたどしく嘘を吐いた。
「おい!なんつーこと言うんだ、いくら俺んちがマズいっつっても客にそんなもの出さねーよ!!」
寺坂の言葉を聞いて村松が額に青筋立てて怒鳴る。それはそうだろう。ただでさえ売れないラーメン屋が、「あの店は賞味期限切れの食べ物を出すらしい」などと噂になったらどんなことになるか。
吉田がそんな村松を必死で止める。
「ウソも方便って言うだろ…」
しかし、そんな吉田のスマホが派手な音を立てて鳴りだした。おそらくピザ屋だ。吉田は慌ててスマホを切る。殺せんせーは吉田に「携帯は切って置きましょうね」と一言注意しただけでまたイトナに向き直った。
「でも正確な原因はわかりませんし…せめてトイレ前まで送ります」
タコおおおおぉぉぉぉぉぉ!マジかあああああぁぁああああ!!
考えていた以上にずっと心配性でお節介だった殺せんせーに、三人は驚愕する。
しまった、早くも万事休すだ。
頭を抱える三人に対して、救いの手が差し伸べられた。男共の目論見にもイトナの仮病にも気づいている狭間が、淡々と黒板に書かれた内容をノートに取りながら言った。
「私らくらいの年の子が、特に下してるとかそんな関係のことでそこまで過剰反応されるって、相当うざったくて恥ずかしいと思うわよ。大丈夫だって言ってんだからほっといたら?」
「にゅやッ…そうなんですか?」
殺せんせーが訊く。狭間はさらに続けた。
「生徒に嫌われたいってんなら止めないけどねー」
その言葉がかなり利いたらしく、殺せんせーはしゅんとなって、とぼとぼと教壇に戻った。
「何かあったら、先生の携帯に掛けるんですよ」
ようやく解放されたイトナは、おなかを押える演技をしながら、教室を飛び出していった。その時寺坂の机にさりげなく、小さな紙切れを丸めたものを落としていった。
「狭間、恩に着る!!」
自分に対して拝むように手を合わせる男共三人に、狭間はクールに返した。
「…次はない。」
寺坂が机の上に置かれた紙切れを開いてみると、そこにはこう書かれていた。
『くだらないことさせてくれたな。ピザ代はお前ら三人で持つくらいしてくれないと割に合わないぞ』
あの野郎、どさくさに紛れて。
寺坂は苦い顔をする。
でも、仕方ないか。負担度を考えれば、それくらいの優遇は妥当かもしれない。
とにかく、早いとこイトナが戻ってくるのを待つしかねえ。
寺坂は前を向き、再び始まった殺せんせーの話をノートに書き取り始めた。

全く、こんなバカな計画に乗るんじゃなかった。
イトナは深いため息を吐きながら、人間離れした速度で山道を下っていた。誰かに見られたら、天狗か新種の生物かと思われるかもしれない。それでも構わず、今の自分に出せる全速力を出して、一分ほどで山のふもとにたどり着くと、そこは…見知らぬ住宅街だった。生い茂る木の根元に視線を落としてみるが、オレンジ色のヘリは当然ながらどこにもなかった。
「…あれ?」
イトナは小さく首を傾げた。

「あいつ、そろそろ着いた頃かな…」
吉田が半分独り言のように村松に言った。村松は、チャーシュー云々のことでまだぶつぶつ言っていた。吉田は返事をもらうのを諦めて、黒板の方を向いた。

確か…この方向に行けば駄菓子屋に出られると思ったんだが。
イトナは考える。そうこうしている内に時間はどんどこ過ぎていく。ピザ屋が到着してから大分時間が経ってしまった。最悪悪戯だと思われて、帰ってしまうかもしれない。
イトナはスマホを取り出し、メールを打つ。
『歯医者とケーキ屋が並んでる所に出たんだが、ここからどっち回りに行けば駄菓子屋に着く?』
送信ボタンを押して、五秒、十秒、二十秒。返事はない。そして気づいた、
そう言えば、あいつ電源を切っていたな。
やっとそれを思い出した自分と、マナーモードにしなかった吉田に腹を立て、イトナはスマホを乱暴に制服のポケットにしまう。せめてコントローラーを持ってくれば糸成号で場所が解ったかもしれないのに。
一番手っ取り早いのは、あのケーキ屋で物憂げに店番をしているなかなか良いプロポーションをしたお姉さんに道を訊くことだろうが…非常に悪いことをしている真っ最中なので、あまり目立つことはしたくない。
イトナは振り返り、今自分が下りてきたばかりの山道を見上げる。
面倒だが、街の景色が見えるくらいの高さまで戻るしかない。

「おせえな、イトナ」
寺坂が教室の前の壁に掛けてある時計を見ながら呟いた。
もう五分は経っている。何かあったんだろうか。
殺せんせーが、黒板に公式を書く触手を止めて、心配そうに呟いた。
「イトナ君は、大丈夫ですかねえ…」
それをきっかけに、ほんの少し、教室内がさわさわしだした。
「便所で頑張ってんなら、そのくらい掛かるだろ…」
村松が言う。
「そうですかね~…」
殺せんせーは完全には納得していないという顔(多分)で、続きを書き始めた。
吉田がその隙を見計らって、スマホを隠しながら電源をつける。液晶がのんびりと機種のロゴを映し出したりウイルススキャンを始めるのももどかしく、メールボックスを開いてみると…三分前にイトナからメールが来ていた。それを読んだ吉田は真っ青になった。
慌てて「右に行け」とだけ打って送信したが、どうだろう?もう遅いかもしれない。
吉田が顔を上げると、そこにはいつの間にやら殺せんせーが立っていた。
「イトナ君ですかっ?!!」
びっくりして椅子ごと後ずさる吉田に構わず、殺せんせーは携帯を取り上げた。

吉田からのみならず、村松、寺坂の顔からさぁーっと血の気が引いた。

山の中腹くらい、良く目立つ高い一本松に登ろうと、一番低い枝に手を掛けたイトナだったが、ポケットの中のスマホがぴろりんと軽やかな音を立てたので、急いで取り出して開いてみる。
吉田:『右に行け』
…遅いんだよ。
舌打ちをしながらもイトナはスマホをしまい、登ってきた道を急いで駆け降りた。
なんでピザごとき食べるのにこんな要らない苦労をしなければならないんだ。

「あーっ、窓からでっかいスズメバチ!!」
村松が叫んだ。殺せんせーがそれに気を取られた瞬間、吉田がスマホを奪い返し、イトナとのやり取りのデータを消した。
「スズメバチなんかいないわよ?」
片岡が怪訝な顔をして言う。
「ねえ」、と互いに顔を見合わせる窓際席の女生徒たち。
「いっ、今入って出てったんだよ!!」
寺坂が頑として言い張る。
「…」
教室内に、奇妙な空気が流れ始めた。
何か、変だぞ。
殺せんせーも同じことを思ったらしく、再びもぎ取る様にして吉田からスマホを奪い取り、開く。そこには年頃の男子にとっては思いっきり恥ずかしいであろう待ち受け画面が映し出されていた。殺せんせーの表情が緩んでピンクになった。
「青春ですねえ」
それは、弁当のおにぎりを幸せそうに頬張る原を、こっそり隠し撮りした写真だった。
本来なら、いや今も紛れもなく、死にそうなくらい恥ずかしい状況であるが野望(ピザ)のためだ、この際そんなことは言っていられない。これで殺せんせーがいつもの小説用ネタメモを取り出して書き留めるなどして、今のことを忘れてくれたら「原、恩に着る!」なのだが…
しかし殺せんせーは、それはそれこれはこれ、と言った様子で顔色をいつもの黄色に戻し、吉田を問い詰めた。
「右に行けって、何ですか?」
「…」
三人の背中を、蝦蟇のように、たらーりたらーりと冷や汗が流れ落ちた。

駄菓子屋が見えてきた、と安堵するのも束の間、ピザ屋のお兄さんがバイクに跨ってどうやらエンジンをかけ始めたのを遠目で見て、イトナは人目も憚らずラストスパートを掛ける。
人類に有るまじきスピードで走ってきた学生服の少年にびっくりしながらも、お兄さんは笑顔でバイクから降りた。
「もう来ないと思ってましたよー。」
イトナは小さく謝ってから、三人からカンパした野口三枚と引き換えに、ピザの入った平たい箱と小銭数枚の釣銭を受け取った。ピザ屋のバイクが発進するが早いか、イトナはヘリコプターも回収して、大急ぎで山道を駆け上り始めた。
流石に息が切れてきた。給料貰ってもいいくらいだ。

イトナが学校の裏手、雑多な灌木が生い茂る場所から抜けた時。
「!」
目の前に、顔色を真っ赤にした殺せんせーがしゅたんっと降り立った。長く伸ばした触手の先に何かぶら下げている。寺坂、村松、吉田の三人が、触手に巻き付かれて目を回していた。殺せんせーは言った。
「随分元気そうに動きますね、お腹が痛いはずのイトナ君」
「…」
「さあ、何をしていたんですか、君の口から白状してください。しらばっくれても無駄ですよ、この三人はもう話してくれましたからね」
しらばっくれるも何も、ピザの箱なんか持っている時点で言い逃れなんてできないだろう。
「…すいません」
イトナは深く息を吐いて、神妙に頭を下げた。殺せんせーは三人を地面に下ろして開放する代わりに、イトナからピザを取り上げた。紙製の外箱ごとバリバリとピザを食べながら、殺せんせーは怒った。
「青春を謳歌するのは結構ですが、学業をおろそかにしてはいけません!!ピザは没収、罰として君たち四人、宿題を3倍にします!!」
「…全く、バカね」
教室の窓からその様子を眺めていた狭間が、呆れたようにため息をついた。

放課後、松来軒のカウンター席にて。
「やっぱりよぉ、マズくたって何だって、安くて速くて確実に食えるここのラーメンが一番だよなぁ」
寺坂が数学のドリルと格闘しながら言った。まあ、ピザには何の罪もないのだが。
村松は厨房で麺の湯を切っている。
「マズいは余計だ。…事実だけど」
「いいから大人しく勉強しなさいよ、クラス三大バカと元不登校児は」
狭間が烏龍茶を啜りながら言った。
横では吉田とイトナが数学の、自分の得意なジャンルを教え合っている。
寺坂は出された醤油ラーメンのスープをすすり、顔を顰めた。苦くてしょっぱい、青春の味がした。
「うあーマズい、もう一杯!」

over

暗殺教室(渚カエ):MONSTER

魔物パロディ。人の魂を食らう悪魔な渚と、孤独なお嬢様・カエデ。題名は勿論、嵐の楽曲から取りました…が、予想GUYに暗くなってしまった。漫画:チキタ☆GUGUを少し参考。



十二時を少し過ぎる頃。
月明かり、草木眠る頃。

ギィ…と音を立てて、鍵を掛けていた筈の窓が開く。頬を撫でる冷たい風で、カエデは目を覚ます。
何度か瞬きをして、意識をはっきりさせる。次第に暗闇に慣れてきた目が映し出したのは、窓枠に立て膝をついて座る異邦人の姿。風に煽られて、黒いマントがはためいている。彼が背負う、月明かりの逆光のせいで彼の表情は伺いしれない。しかし、カエデは満面の笑みを浮かべてベッドを飛び出し、彼の元へと駆けていった。
「渚!」
渚と呼ばれた少年は、絨毯の上に身軽に飛び降り、走ってきた少女の華奢な身体を受け止めた。
「カエデ、会いたかった」
渚はカエデの背中に腕を回した。カエデの首筋から、ふわりと甘い香りが立ち上った。
彼女の香りは、ここのところどんどん強く、芳しくなってきていた。今がまさに食べ頃、まさに旬。
胃袋から脳髄を支配しようとする凶暴なまでの空腹感を、渚は慌てて抑え込み、にっこり優しいいつもの笑顔を取り繕ってみせる。
カエデも、渚が笑ったのをみて釣られるようにして笑顔になる。
しかし、月明かりに照らされて、はっきり見えた彼の顔を見て、その笑顔は少し曇る。
「渚、また顔色悪いよ。ちゃんとご飯食べてる?」
そのご飯は、彼女自身や彼女と同じ年頃の、若い少女の魂なのだが。
カエデは、そんなことを知る由もなく渚のことを心配する。
渚は苦笑して首を横に振った。
「僕は悪魔だよ?ご飯なんてひと月食べなくたってへっちゃらだよ」
「…」
それでもカエデは、悲しげな顔をする。
参ったな、そんなにひどい顔してるかな。
渚はカエデの化粧台にはめ込まれた、花模様の縁取りがオシャレな鏡を横目でそっと盗み見てみる。そして言葉を失う、これは酷い。
青白い頬、目の下には色濃いクマ。まさに悪魔然としている。こんなにおっかない人相じゃ、新たな獲物を捕まえようにも、逃げられてしまうだろう。
カエデは暫し、腕を組んで考え事をしているみたいだったが、やがてポンと手を打った。
「お昼に作ったチョコレートプリンがあるんだった!それ一緒に食べよう?」
渚はからかい混じりに言う。
「この時間に食べるの?僕は兎も角、カエデ太るよ?」
カエデは頬をリスのようにぷうと膨らませてむくれた。
「し、失礼ね。渚が食べるのに付き合うだけだもん!」
そう言いつつ、ウェディングドレスみたいに真っ白なネグリジェを翻し、部屋を出てパタパタと階段を降りていく。
「冗談だよー!」
渚はその小さな背中に声をかける。
彼は暫く、フフフと楽しそうに笑っていたが、次第にその笑みはすうっとフェードアウトしていった。

こんな僕のことすら心配してくれるカエデの優しさに、暖かな笑顔に、心地いいとすら感じている自分が居る。僕はどうしたって闇の中でしか生きられない生物なのに。人間の女の子なんて、自分に恋させてエネルギーの高まった魂を頂く、悪魔にとっては餌にしか成り得ない筈の存在なのに。

…魅せられては、いけないのに。

考えているうちに、カエデは戻ってきた。カエデは両手にプリンの盛られたグラスを持って、幸せそうに笑っていた。

「嬉しそうなのは僕が居るからかい、プリンが食べれるからかい」
そう訊いてやると、カエデは渚の隣、窓枠に腰掛けながら答える。
「両方!!」

禁断の夜のおやつを食べながら、話は弾む。根っからのプリン好きだと云うだけあって、カエデの作ったチョコレートプリンは悪魔の舌にも美味しかった。悲しいことに、渚を飢えから救い身体を保つ栄養分にはならないのだが。
カエデはさくらんぼみたいに愛らしい唇から、マシンガンのように次から次へと色々な話題を繰り出す。
庭に咲いた美しい赤いバラの話、味見をするのが好きすぎてシチュー鍋を半分空けてしまうばあやの話、そして…めったに会えない両親の話。

「お仕事だから、仕方ないのはわかってるんだけどね」
カエデは少し目を伏せて言う。
「でも、寂しくないよ。渚が毎晩来てくれるから」
カエデはにっこり、満面の笑みを浮かべて渚に微笑みかける。
渚の表情が、悲しそうに少し歪む。
「…僕は、悪魔なんだよ…?」
渚が獲物の少女にその正体を知られるのは、決まって彼女を喰らい殺すその瞬間だった。何故か目の前のこの少女には、何を餌としているのかは明かしていないが、自分の正体についてはとうに教えてしまっていた。それでも彼女は、渚を受け入れた。そして今もそれは、変わらないらしい。

「渚は優しい悪魔だから。大丈夫。」

拒絶や絶望の代わりに寄せられたのは、絶対的な信頼と微笑みだった。

人間が日々パンを食らうのと同じ、そこには腹が満たされる満足感はあるものの、何の感慨も感傷も湧かない、当たり前の行為だった筈だ。

仕方ないじゃないか、どうしたって腹は減るんだ。ヒトも、悪魔も。

ヒトを獲物とするように作られた自身の存在を、罪に思う必要は、ない。

「でも、もし渚が怖い悪魔でも」
カエデがまた口を開いた。
「渚にだったら、殺されても食べられても構わないかな、なんて」
カエデはそう、はにかむように言って、笑う、また微笑う。
それから真っ赤になって顔の前で手をぶんぶんと振る。
「ご、ごめん、今の無…し…?」
恥ずかしがってまくしたてるカエデの言葉は、途中で渚に遮られてしまった。渚が腕をカエデの背中に不意に回し、カエデの顔を強く胸に押し付けたのだ。

「渚…苦しいって…」

カエデが小さく呟く。そんな声でさえも愛しくて、渚はカエデが苦しがるのにも構わず、彼女を抱きしめる腕に力を込める。

「ごめん、ごめんね」

カエデの自分より一回り小さな身体は、柔らかくて温かだった。そして、今が旬と声高に叫ぶように、甘美な香りを纏っていた。
簡単なことだ、そのまま鋭い爪で首筋を切り裂き、血に染まった身体から離れようと足掻く青白い魂を、捕まえて喰らえばいい。

…でも、もう少し彼女と一緒に居たい。

窓から覗く地平線、森の向こうが淡い金色に染まり始め、小鳥が新しい日の始まりを告げる頃が、二人の別れる時間だった。
何時の間にか渚の腕の中で眠ってしまったカエデを、屠ることも傷つけることもせず、羽の詰まったベッドに寝かせ、窓枠に足を掛ける。そして、意を決して飛び降りる。夜露に濡れた草の繁る地面では、怪我をすることはないが、それなりの衝撃を渚の脚に伝えた。

もう、悪魔らしく空を飛ぶことすら僕には出来ないんだ。

闇の生き物にとっては、命取りに成り得る太陽が昇り切るのを恐れながら、渚はよろよろと歩く。

薄紅色を帯びたたなびく雲は、見たこともないほど綺麗で、残酷だった。

僕はそれでも…それでも彼女を喰らうだろう。近い内に。明日こそ、いや今夜こそ。僕が僕であるために。しかし。

渚は思う。

その瞬間、彼女だけは、カエデだけは、今まで殺してきた娘たちの誰よりも、優しく殺してあげられたらいいのに。

そう、願うのだ。

over

碧洋の華Ⅱ

Notover今日は凛香ちゃんが正式に海賊になるまで。全体的にコメディタッチ。野郎共がわちゃわちゃしてるの書くの楽しすぎて中々ラブラブ千速にたどり着かねー。
私が村松くんを書くと、どうしてだか寺坂君っぽくなりますね…いっそ差し替えるか?とも思ったのですが、寺坂君が料理出来るかわからないし、村狭←イトのシーンを入れる予定があるので…書き分けって、難しい。



国王が、俺達が主にターゲットにしていた敵国と同盟を結び、海賊の取り締まりを厳しくするようになったため、自分たちは昔より随分警戒しながら仕事をしなければならなくなった。俺が彼女を連れてきたのは、彼女の言葉を鵜呑みにしたからだが、果たしてそれだけだったろうか?

「それで、お前お宝じゃなくて女の子連れて来ちまったわけか」
夜明けの迫る、青白い空の下。潮風が凍てつくように吹き付ける甲板で、磯貝は困ったように頭を掻いた。千葉は、ため息混じりに答えた。
「最近は海軍の目も厳しいし…権力者に恩を売っておいたほうが、海賊仲間全体の為にも良いかなと思って…」
「まあ、美しい女性は確かに宝だがな。美術的観点から見て」
菅谷がまるで綺麗な大理石の像でも見るように、右から左からジロジロと凛香を眺め回す。
「肌の滑らかさに育ちの良さが滲み出ている。意志の強そうな瞳、長い睫毛…こりゃなかなかの逸材だ…痛てっ」
村松が菅谷の後ろ頭を叩いた。
「あんまりバカな真似してるとかみさんにバラすぜ。…冗談じゃねえ、俺がどんだけ苦労してやりくりしてると思ってんだ。食う奴が一人増えるなんて俺はゴメンだよ。大体な、海賊ってのは男の仕事なんだ。非力な女なんかに出来る仕事はここにはねえよ。その娘はとっとと海にでもぶち込んで…」
そこで村松は、磯貝が恐ろしく冷たい目で彼を睨み付けているのに気付き、一瞬言葉を飲み込んだ。磯貝は女性・子供を傷付けることを何より嫌っているのだ。村松は慌てて言い直す、
「…手近な港町に下ろして、丁重にお家までお送りするのが良いと思うぞ。」

「嫌よ。」
凛香が、よく響く声で断固として言った。
「私を端金と引き換えに売ったも同然の実家に帰るのも、あの男の側に戻るのも。返されるくらいなら、この場で海に身を投げる。」
「?!じゃあ、貴族の実家とやらとはもう無関係…?俺らを捕まえたり逃したりできる権力を君が持っていると訊いたから、連れてきたのに」
千葉が声を上げた。凛香は千葉の方を向いてきっぱりと言った。
「あれはウソよ。騙したのは悪かったけど。でも、一度くらい自分の意志で生きたかったの」
「何てこったい…」
千葉は頭を抱えてしまう。
世間知らずのお嬢様の、初めての反抗の為に利用されただけだったとは。
よくよく考えれば、貴族…それも海軍将校のお嬢様を略取することが、どれほど危険なことか。彼女が嫁に出てようが勘当されてようが、今回のことは彼女の父親の耳にも入るだろう。娘が海賊に攫われたとなったら、彼らが取る行動は、恐らく…。
「ほら、そんなこったろうと思った。千葉、お前みてーな若造が、勝手な判断で動くとそういう失敗をするんだ。解ったら大事にならねー内にその娘は海に…じゃねえや、実家でもあの船の主人にでも返して…」
「身寄りがない…自由もない…」
イトナがぽつりと呟いた。
「村松、お前は、身寄りも無く飢えて死ぬ寸前だった俺を拾って衣食住面倒を見てくれた。海賊団に口もきいてくれた。…なのに、この娘のことは助けないと言う」
それから、イトナは村松をじーっと見つめた。
「な、なんだよ…」
「生まれで運命が決まるなんて、残酷だと思う…」
イトナはさらに、子猫みたいに澄んだ大きな瞳で村松をじーっと見つめ続ける。
「…」
イトナの言葉で、海賊たちの多くの顔に、悲しげな表情が浮かんだ。海賊たちは、何かしら仕方のない理由を抱えてここに辿り着いた者たちばかりだった。
自分を見つめるイトナの目に、また自分を取り巻き始めた責めるような空気に耐えきれず、村松は叫んだ。
「だーっ、そのデカい目で俺を見るな!文句があんなら船長に直接言え!!」
「ええっ、俺?」
突然話を振られた磯貝は、戸惑いながらも答えた。
「俺は…別に構わないけど…」
大半の海賊たちの顔に、わあっと笑みが広がった。村松は苦々しげに鼻を鳴らしたが。イトナはいつもの無表情に戻り、凛香に対して小さく親指を立ててみせた。凛香は、小さく頭を下げた。磯貝は微笑んで、明るく言う。
「海軍に追い回されるなんて、今更だし。俺らに目を付ける奴らが少し増えたって、俺がみんなを守ってやるさ。」
凛香が千葉の方を見ると、長い前髪のせいで表情は伺い知れなかった。しかし、固く腕を組んで、村松ほどあからさまではないものの、自分を歓迎していないことは明らかだった。

とにもかくにも、凛香はこうして磯貝海賊団の一員となったのだ。

磯貝は海賊たちに言った。
「万が一彼女に不届きな真似をする奴がいたら、問答無用で海に突き落とす。彼女に何か仕事を与えてやってくれ。連れてきた千葉、お前が中心になって面倒を見るんだぞ」

千葉が、凛香を振り返りもせずにスタスタ速い速度で歩く。
「あの、ごめんなさい…」
気まずい沈黙に耐えきれず、凛香が口を開く。
「…」
千葉は、凛香の声掛けに対しても黙ったままだった。凛香が諦めて口をつぐむと、暫くして千葉はため息とともに呟いた。
「磯貝が良いって言ったんだ、仕方ない」
「私をどこに連れてくつもり?」
凛香は、千葉が何かしら喋ってくれたことに安堵してもう一言かけてみる。千葉は短く答える。
「着替えさ。そのナリじゃ何にも出来ないだろ」
凛香はそう言われて自分の着ている白い寝巻を見る。そしてちょっとだけ赤面した、よくもこんな格好で今まで居られたものだ。しかも見知らぬ男性ばかりの海賊団、夫の元にそのまま居るよりも酷い目に遭っていたかもしれないというのに、よくホイホイ付いていく気になったものだと我ながら呆れてしまう。でも、もう後戻りは出来ない。
千葉は船室の中、一つの扉の前で立ち止まり、ポケットから取り出した鍵でそれを開ける。千葉の自室らしい。
所々武器や宝石や衣服が散らばってはいるが、基本的に片付いた小さな部屋に、凛香も付いて入る。千葉は箪笥を漁って、適当な衣服を数枚、凛香に投げて渡した。
「男物しかなくて悪いけど。なるべく早く着替えて」
そう言って千葉は部屋から出ていった。凛香は貰った服を広げて、よく観察してみる。麻の白いシャツ、薄緑の長ズボン、青い上着に真紅のスカーフ。着古されてはいるが、良く手入れされていた。
…でも、もしかしてこれは…。

「…彼シャツ?」
竹林が眼鏡を指で押し上げながら訊いた。
「…千葉は変態だったのか。」
イトナも真面目くさった口調で呟いた。
とりあえず服を着てみた凛香だったが、どれもこれもぶかぶかで、とてもそれで仕事が出来る状態ではなかった。ズボンは三回くらい裾を折りたたんでも床に引きずる状態だったし、シャツは胸元をたくし上げていないとずれてしまいそうだった。
「物語の女にしか興味の無い竹林と、娼婦を胸の大きさで決めるイトナにだけは言われたくない」
千葉は二人に言い返しながらも、凛香のことは直視出来ないでいた。
「直すわよ。針と糸貸して」
凛香が言った。
「直せるのか?」
千葉が訊く。凛香の手は真っ白で綺麗で、裁縫など今までにしたことがない様に見える。
「馬鹿にしないでよ。適当に縫い合わせればなんとかなるでしょ」
危ない…一同は震えあがった。千葉は深いため息を吐く。
「教えるから…一応貸したものだし大事に扱ってくれ」

そして千葉と二人で部屋に閉じこもること数時間。凛香は何とか、貰った一組の服を自分に合ったサイズに作り直すことが出来た。疲弊しきった表情の千葉を伴い鏡の中に映る自分は、もうすっかり華麗な女海賊といった風貌だった。…傷一つ無かった指先は、今や刺し傷だらけであちこち血が滲んでいたが。
「良いな!」
菅谷がニッと笑って言った。それから千葉の肩をポンと叩いた。
「やっと、スタート地点に立ったって感じだよ…」
千葉は弱弱しく呟いた。

動きやすい服に着替えたら、次は甲板の掃除だ。モップを持って船室から出る。と、突如吹いてきた強い潮風に煽られたのか、船がぐらりと横に揺れる。
「キャッ!」
凛香はよろけ、千葉の身体にうっかりもたれかかる。
千葉は操縦室を睨み付けた。操縦室ではハンドルを握ったカルマがニヤニヤ笑っていた。イトナはその傍で白々しく口笛を吹いていた。

何とか甲板の塩やら埃やらを全部拭い去って綺麗にしたら、今度は料理の支度だ。
「全く、食材ひとつまともに切ることも出来ねえなんて、やっぱりお荷物じゃねーか」
村松はぶつぶつ言いながら薄く切った牛肉の塩漬けを葡萄酒に浸していた。
「…口煩いんだ。料理は上手いけど。逆らわないほうが良い」
千葉は凛香に、そっと耳打ちした。二人の横から、びゅっと腕が伸びてきてオレンジの実を一つ掴み取った。
「竹林!」
千葉が驚いて言う。彼は普段、あまり厨房には来ないんだが…
竹林は言った。
「壊血病は怖いから。しっかりビタミンCを摂るんだよ」
そして、持っていたメスでオレンジをスパッと二つに切り分けると、片方を凛香に、もう片方を千葉に渡した。
「お前ら、何こそこそしてやが…あ!!」
二人がオレンジを持っているのを、そして後ろに竹林が居るのを見咎めて、村松は怒る。
「盗み食い奨励してどうするっ!次に陸に着くまで食料買えないんだぞ!!」
竹林は慌てて逃げようとする。しかし入口で、厨房の様子をこっそり伺っていたカルマ、イトナ、菅谷に躓いて派手に転げまわる。村松はそこを逃さず、竹林に掴みかかって乱闘(ただし一方的)に持ち込もうとする。
「こら、お前ら持ち場に戻れ!ちゃんと仕事しろ!!」
磯貝船長がやってきて、温厚な彼にしては珍しく声を荒げて怒鳴った。それで全員、蜘蛛の子を散らすように各々の仕事場へ戻って行った。
「…今、この船どうやって動いてたの」
凛香が千葉に訊いた。
「さぁ…」
千葉が首をひねる。凛香はまた訊く。
「このオレンジ、食べていいのかな」
「風呂に浮かべる訳にもいかないだろ」
千葉はオレンジの厚い皮に爪を立てながら言った。
凛香は、フッと小さく吹き出した。千葉も、やや気恥ずかしげに笑う。
「悪いな、変な奴らばっかりで」
凛香は首を横に振った。
「全然。むしろ楽しいくらい」

その時。
「海軍だーっ!!」
菅谷が叫ぶ声が聞こえた。はっと、二人が振り向くと同時に、ドカーン!!大砲が派手にぶっ放される音がした。千葉は凛香にそこにいるようにと指示してから、甲板へと出ていった。

「ぎりぎり、直撃は免れたよ」
カルマがハンドルを回しながら言った。船から少し離れた海面に、巨大なガレオン船の影があった。
「あんなデカい図体でこんなちっさいフリゲート船狙うとかっ…」
村松が憎々しげに呟いた。
「無理に戦うな、逃げろ!カルマ、東の方向にひたすら進め!イトナは煙玉の準備!」
磯貝が的確に船員たちに指示を出していく。イトナは銃身が太めのピストルに大きめの弾を込め、千葉に投げて渡す。千葉はそれを華麗にキャッチし、引き金を引いた。バーン、大きな音と共に軍艦に放たれた弾は、途中で派手に弾けて海上一面に濃厚な霧を作った。
「こんだけ視界が悪けりゃ追ってこれねーな、流石カルマ御用達の錬金術師」
菅谷が安心したように頷いた、が。
「追って来るぞ」
イトナが望遠鏡を覗きながら言った。確かに、濃霧の中から灯りがぼうっと浮かび上がってくる。それは次第に、軍艦のシルエットを露わにした。しかも、軍艦が進むごとに霧がどんどん晴れていく。
「利かねーじゃねえか!」
村松が全力でカルマにツッコミを入れた。
「使い過ぎたかな…」
カルマがハンドルを必死で回しながら呟く。
「軍艦から小型船が!」
竹林が軍艦の方を指さして言った。見ると、まるで軍艦を先導するように幾つかのボートが恐ろしいスピードで、海賊船を取り囲もうと海面を走ってくる。
「小型で機動力に優れる俺たちのような船には、それ以上に速い小型船で対抗か…考えたな」
磯貝がピストルに弾を装填しながら呟いた。
「しかしあんな小型船見たことがない。物凄い技術力だ」
イトナが興味津々でボートの一つを望遠鏡で観察する。
「危ねえっ!!」
村松がイトナの襟首を後ろから引っ掴んで、船の奥に引き戻した。次の瞬間、イトナが居たまさにその場所をピストルの弾が通り過ぎ、甲板に命中した。
「気をつけろバカヤロウ!!」
「まずは銃撃戦に持ち込みたいようだな」
磯貝が言った。千葉も、ありったけのピストルに次々と弾を込めながら磯貝に返事をする。
「ピストルだったら俺の出番です。片っ端から撃ち落として沈めてやる」
そして両手にピストルを持ち、狙いを定めて引き金を引いた。
「ぐわっ!」
「ぎゃあ!」
左右の方向から二つの悲鳴が微かに聞こえてきた。恐らく狙撃手に命中したのだろう。千葉はピストルを捨てて新しいものと取り換え、また同じように両手に一丁ずつ持って引き金を引く。
ピストルが得意なものは戦いに参加し、苦手な者はひたすら銃弾を装填する。その連携で磯貝海賊団は着実に敵を仕留めていったが、やはり狙撃の正確さ、速さで千葉に敵うものはいなかった。カルマの運転技術のおかげもあり、このまま逃げ切れるか、と思われたその時。
「千葉っ、危ない!!」
磯貝の叫ぶ声がした。はっとして、千葉が避けようとした時は遅かった、海軍兵士の撃った一発の銃弾が千葉の右手を掠めていった。
「くっ!」
千葉が

暗殺教室(男女):ラッキースケベ12連発!

E組男子が、女子のお着替え現場にドッキリ☆遭遇!さあどうなる!!
最近長たらしくてクドい文章ばかり書いていたので、今日はライトに。書き慣れていないカップルが多いので、キャラ崩壊はご容赦下さい。あり得ーん、てのもあるかも。


[渚カエ:ナチュラル]
渚&カエデ:「あ。」
渚:「ごめんね、居ると思わなくて」
カエデ:「ううん、気にしないで。もう着替え終わるし」
渚:「そうか。…そういえばこの暗殺の計画書、磯貝君から渡すように頼まれてた」
カエデ:「ありがとー。助かるよ」
渚&カエデ:「…あれ?」

[カル愛:ドジっ娘]
カルマ:「あ。」
愛美:「カルマ君!聞いて下さい、頼まれていた薬品が完成したんです!!今度のは凄いですよ、何と言っても威力の強さ、吸引したら丸一日は目が覚めな…」
カルマ:「奥田さん!…服着て。胸、しまって。」
愛美:「え?あ、きゃっ!」
カルマ:(もうちょっと自覚を持ってよ、全く心臓に悪い…)

[杉神:引きずる]
杉野&神崎:「あ。」
杉野:「ごっ、ごめんっ!!」一目散に走り去る
その夜
杉野:(神崎さんの、着替え…見ちまった…)
神崎:(杉野くんに、見られちゃった…)
杉野:(どうしよう…)
神崎:(どうしよう…)
杉野&神崎:(明日どんな顔して会えばいいんだろう…)


[イト狭:さらに無礼]
イトナ&狭間:「あ。」
イトナ:数秒間まじまじと見てしまってから「…すまなかった。…でも安心しろ、俺はEカップ以下には興味はない。」
狭間:「…呪い殺される覚悟はあるかしら?」

[村狭:狭間さんの災難]
村松&狭間:「あ。」
村松:「あっ、あああ安心しろ、おっ、俺はおめーのハダカなんか興味ねーからよ!!」
狭間:「どいつもこいつも…」

[吉原:カワイイヒト]
吉田&原:「あ。」
吉田:「す、すまねえ」
原:「気にしないで!そりゃ中村さんとか矢田さんとかだったらヤバいかもしれないけど、私だもん!大丈夫よ」
吉田:「大丈夫じゃない!!」
原:「…」
吉田:「大丈夫じゃ、ねぇよ…お前だって、女だし…」
原:「…」
寺坂組一同:「何やってんだあいつら」

[千速:ツンデレ]
千葉&速水:「あ。」
千葉:「わ、悪い(速水が着なさそうなピンクの花模様…)」
速水:「…何よ、早く出てってよ」
千葉:速水から視線を逸らしながら「あの…もしかしてこの前のゲス会話聴いてた…?」
速水:「な、何の話?」
千葉:「いや…男ばかりで集まって、好きな奴にはどんな下着を着てほしいかみたいな…い、いや忘れてくれ」
速水:「たっ、たまたまよ!いいから、早く出てってよ!」

[前ひな:るーみっく?]
前原&ひなた:「あ。」
ひなた:「このっ、ド変態っ!!」
前原:「うわ、ちょっ!!やめろっ、事故だ!」
ひなた:「嘘つけ、あんたのことだもん、絶対ワザとに決まってる!!」
前原:「はあ?!だーれが、お前みたいな胸も尻も平たい色気の無え女の着替えなんかっ!」
ひなた:「なあんですってえー?!!」
磯貝:「…仲良くていいな」

[木桃:ラブコメディ]
木村&桃花:「あ。」
木村:「わ、悪い!」背を向けて逃げようとする
桃花:「あ、ちょっと待って…」木村の腕を強く引く
木村:「え…?」
バターン。木村が顔を上げると、そこには上半身下着姿の桃花が!自分の身体の上に乗っていた!!
木村:「え…ええーッ?!」
殺せんせー:「おはようございます木村くん!!良い夢見てたようですネ!!」
木村:「…(周りを見回す)授業中…夢…?」
桃花:クスクス笑う

[菅中:オヤジJC]
菅谷&中村:「あ。」
菅谷:「す、すまない!」逃げようとする
中村:「ちょっと待ちたまえ菅谷くん。女子の柔肌盗み見といて何の償いも無しかね」
菅谷:「い、いやだからっ、悪かったって!」
中村:「あんたも脱ぎなっ!…おお、ひょろ長い割に良い筋肉してるじゃなーい!お肌もスベスベっ、羨ましいっ」
菅谷:「いやだああああああ助けてーっ(泣)」

[磯メグ:未然に防ぐからそーゆーことは起こらない]
磯貝:(あれ、誰かいるのか?)ノックしつつ「入ってもいいか?」
メグ:「あっ、磯貝君?ごめん、ちょっと待ってて」
磯貝:「了解ー」
岡島:(アイツ、マジで性欲とか無いのか…?)
前原:(思春期真っ盛りなのに嘆かわしい…)

[寺律:Dが足りない]
寺坂:スマホを開いて「あ。」
律:「いやぁ~ん、寺坂さんのえっち~!!」
寺坂:「がっ、画面から出てこれねえ二次元の分際で言ってんじゃねえーッ!!」

以上、お粗末。
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